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東京地方裁判所 平成5年(ワ)11242号 判決 1996年12月20日

原告 スガツネ工業株式会社

被告 株式会社太田製作所

主文

一  被告は、原告に対し、金一七六四万〇五二三円及びこれに対する平成五年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金三五二八万一〇四七円及びこれに対する平成五年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記一1の実用新案権を有する原告が、後記一5の期間、業としてヒンジを製造販売していた被告に対し、右実用新案権侵害を理由として、実施料相当額三五二八万一〇四七円の損害賠償、及びこれに対する不法行為後の民法所定の遅延損害金の支払を請求をしている事案である。

一  基礎となる事実(4及び5末尾括弧書き部分を除き、争いがない。)

1  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。

登録番号 第一八九八二五五号

考案の名称 ヒンジ

出願 昭和五七年一二月八日

出願公告 平成三年三月五日

登録 平成四年四月七日

2  本件考案の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである。

3  本件考案の対象となっているヒンジは、家具等の扉の開閉箇所に取りつけて使用するものであり、マウンテイングプレートbとカップ形状のソケットdが、二つのリンクe及びfで連結されている構成を有しており、右マウンテイングプレートbをネジ等で扉取付枠aに固定し、他方、右ソケットdを扉cの凹部cにビス等で組み込み固定することによって使用される。具体的には、右マウンテイングプレートbの前端部に拡幅リンクe及び狭幅リンクfのそれぞれ一方端部を軸ピンg、hによって回転可能なように取り付け、また、右ソケットの前縁部に右両リンクの他方端部を軸ピンg′、h′によって回転可能なように連結し、右各軸ピンの回転軸の偏芯に基づく両リンクの運動により扉を開閉する機構を有している(なお、説明中の符号は、本件公報記載の図面中のものである。)。

4  本件考案の構成要件は、次のとおりである。(前記2及び甲二)

A マウンテイングプレートとソケットをリンク機構にて連結してなるヒンジにおいて、

B 上記リンク機構は拡幅リンクと狭幅リンクとからなり、

C 上記ソケットに軸ピンにて枢着可能なるよう上記拡幅リンクの左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部には、拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて、

D 上記両側カール部の先端側を連設してなる連設部が形成されているヒンジ

5  被告は、平成三年三月六日から同五年五月末日までの間に、別紙物件目録一ないし三の各一ないし四及び同物件目録四の一、二記載のヒンジ(以下、それぞれ「被告ヒンジ一ないし三の各1ないし4及び被告ヒンジ四の1、2」といい、まとめて「被告ヒンジ」と総称する。)を業として製造・販売した(被告ヒンジを別紙物件目録記載のとおり特定することについては、被告ヒンジ三の1ないし4(以下まとめて「被告ヒンジ三」という。)を除いて当事者間に争いがなく、被告ヒンジ三については、別紙物件目録三の一ないし四の構造の説明の各4項及び同物件目録添付の各第2図、第3図についてのみその特定について争いがある。)。

6  右期間内の被告ヒンジの総販売個数は、合計一四四〇万三八三二個、その売上総額は、金一一億七六〇三万四九一一円であり、その内訳は次のとおりである。

(一) 被告ヒンジ一の3、4及び被告ヒンジ二の3、4(軸ピンとして一本ピンを使用するヒンジ)

売上額 五億七四七八万二〇四一円

(二) 被告ヒンジ一の1、2、被告ヒンジ二の1、2、被告ヒンジ四の1、2(軸ピンとしてU字ピンを使用するヒンジ)

売上額 五億二五九八万六六三六円

(三) 被告ヒンジ三の1ないし4

売上額 七五二六万六二三四円

二  争点

1  被告ヒンジは、本件考案の技術的範囲に属するか。

(一) 被告ヒンジは、本件考案の構成要件Bを充足するか。

(二) 被告ヒンジ三の1ないし4は、本件考案の構成要件Cを充足するか。

(三) 被告ヒンジは、本件考案の構成要件C及びDを充足するか。

2  本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額

三  争点1に関する当事者の主張

1  原告の主張

(一) 本件考案の作用効果は、次のとおりである。

本件考案出願前、拡幅リンクの先端に切欠溝がないヒンジと、切欠溝はあるが各軸承部が連設部で連結されていないヒンジとがあった。

しかし、切欠溝のないヒンジの場合には、扉の開く角度が狭いという欠点があり、また、本件公報第3図、第4図のごとく切欠溝jはあるが連設部のないヒンジの場合は、各軸承部iの強度が弱いこと、軸ピンg′を軸承部iに挿入するときに軸ピンg′が偏芯しやすいためヒンジの自動組立における不良品の発生率が高く作業効率も低下してしまうこと、及び、軸ピンg′への潤滑油の補充に問題があるなどの種々の欠点があった。

本件考案は、拡幅リンク1の中央部に切欠窓孔6を設けることによって、閉扉時に狭幅リンク5の一部が右切欠窓孔6の中に受容され、この分だけ扉の開角度が増し、また、カール部を連設部7で連結することによって、右軸承部2の強度が増大し、かつ、本件ヒンジの自動組立てにおいて右連設部7が軸ピン4を挿入する際のガイド役となり不良品の発生率を抑止することに成功し、加えて、右軸ピンに給油した潤滑油が連設部に保持されることにより同軸ピンへの潤滑油の補給が十分にできるようになり、長期にわたる円滑なヒンジの運動を可能にしたものである。

(二) 本件考案と被告ヒンジの対比

被告ヒンジは、次に述べるとおり、いずれも本件考案の構成要件をすべて充足している。

(1)  被告ヒンジは、アームbとカップdが外リンク1と内リンク5により連結された構造を有しているから、前記構成要件Aの構成を具備している。

(2)  被告ヒンジにおける両リンクは、幅の広い外リンク1と狭い内リンク5の組み合わせからなるから、前記構成要件Bの構成を具備している。

ところで、被告ヒンジの内リンク5は、いずれも軸承部付近が狭幅で、それ以外は外リンクの幅とほぼ同一である。しかし、本件考案の狭幅リンクについては、考案の詳細な説明の項に「狭幅リンクf(このリンクは少なくともソケットと枢着する側が狭幅であればよい)」(本件公報二欄一、二行)と明確に記載されており、「狭幅」の内容は、全長にわたって幅が狭いと解釈する必要はなく、ソケットと枢着する側、すなわち拡幅リンクの先端に設けられた切欠窓孔に受容される部分の幅が狭いとの意味と解釈すべきである。したがって、被告ヒンジの内リンク5の形状は、本件考案の構成要件Bの狭幅リンクの特徴を具備しており、被告ヒンジは、いずれも本件考案の構成要件Bを充足することに何ら疑問の余地がない。

(3)  被告ヒンジにおける外リンク1のカップ側部分は、軸ピン4またはU字ピン4が軸孔3に挿入可能なようにカール状に巻き上げられてカール部を形成し、軸承部2となっており、また、当該部分には閉扉時に内リンク5が受容可能なように切欠6が設けられているから、前記構成要件Cの構成を具備している。なお、被告ヒンジ三と構成要件Cとの対比についての詳細な主張は、次の(三)のとおりである。

(4)  被告ヒンジのカール部2′は、第一軸カバー部9で連結されるという構造を有しているから、前記構成要件Dの構成を具備している。

(三) 被告ヒンジ三と構成要件Cについて

(1)  被告ヒンジ三は、略九〇度で折曲したときにおいて、内リンク5の一部が外リンク1に設けられた切欠6に受容されないものであるところ、被告は、後記2(二)(2) において、「閉扉時」とは、略九〇度で扉を閉めたときであるから、被告ヒンジ三は、本件考案の構成要件Cを充足しない旨主張する。

しかしながら、構成要件Cにおける「閉扉時」とは、「ヒンジが最大限折曲したとき」と同義である。すなわち、本件考案は、あくまでヒンジの構成をその対象としているのであって、その構成の説明の一環として「閉扉時」との表現を用いているにすぎないのである。しかも実用新案登録請求の範囲に、「閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」と記載されていることから明らかなとおり、狭幅リンクと切欠窓孔との相互関係の構成を、ヒンジが扉に取り付けられた状態で説明したにすぎないのであるから、扉が最大限閉じた状態で、狭幅リンクの一部が切欠窓孔に受容可能なように構成されていれば、それで必要にして充分なのであって、当該ヒンジを現実にユーザーがどのように使用するかのごときは問う限りではない。

換言するならば、ヒンジの構造が閉扉の状態で、内リンク5の一部が外リンク1に存在する切欠6に入り込み得るならば、当該ヒンジは、「閉扉時において内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6に受容可能になっている」ということができるのである。そして現に、家具によっては、扉が取り付け枠に対し直角以上に家具内部に食い込むような使用態様も存するのである。かかる家具に被告ヒンジ三を装着した場合、扉を最大限に閉じた状態では、内リンク5の一部が外リンク1の切欠6に入り込むのである。

被告ヒンジ三が、その内リンク5の一部が切欠6に受容可能であるのに、被告主張のごとき使用態様では受容することがないから当該構成要件を具備しないというのであれば、本件考案は、ヒンジの考案であるにもかかわらず、現実に当該ヒンジを使用する扉の開閉角度によって、権利侵害の有無が左右されてしまうという奇妙な結果になってしまうのであって、その主張自体理由がない。要するに、被告の主張は、単にユーザーの使用態様によると受容しない場合があるというだけにすぎないのである。

(2)  本件考案の実用新案登録請求の範囲には、ヒンジの構造として「閉扉」と共に「開扉」の文言も示されているが、これらをヒンジの具体的使用態様、すなわち実際に採用された扉との関係でヒンジの構成を特定すべきであるとする合理的根拠は全くない。

また、詳細な説明においても随所に「開扉」、「開扉角度」、「閉扉」、「閉扉時」、「開扉状態」「閉扉状態」あるいは「開扉可能」などの表現がある(本件公報二欄、四欄参照)。それらを統一的、合理的に理解するならば本件明細書において「開扉」「閉扉」とは、ヒンジが具体的に用いられた扉の状態を指称するのではなく、ヒンジそのものの構成を、拡開ないし折曲という動きに即して説明するため便宜的に採られた表現であることが当業者の何人にも明白である。

これを図面についていうならば、第2図は、マウンテイングプレートbに対してソケットdが開いた状態であって、これを「開扉状態(四欄四三行は明白な誤記)」と表現しており、第1図は、マウンテイングプレートbに対してソケットdが閉じられた状態であって、これを「閉扉状態」と表現している。また、第6図は、拡幅リンクの切欠窓孔に狭幅リンクの一部を受容した状態を示しているものであるが、扉はまったく図示されていないにもかかわらず「閉扉状態」と表現している。

これを要するに、実用新案登録請求の範囲にいう「閉扉時」の技術的内容は、右第1、第6図の閉扉状態(折曲状態)における拡幅リンクの切欠窓孔と狭幅リンクの関係を表現したものであって、ヒンジをいかなる構造の扉に使用するかはユーザーの任意に選択する事柄である。仮に被告ヒンジ三を入手したユーザーが、閉扉時の角度が直角で止まる家具にこれを使用したとしても被告ヒンジ三を製造販売したことが本件実用新案権の侵害であることに変わりはないのである。被告ヒンジは、いずれもが本件実用新案登録請求の範囲記載のごとく「切欠窓孔に受容される」ごとく使用され得る構造になっているのであり、被告ヒンジ三も例外ではない。

(3)  ヒンジが直角以上に折曲する構造となっている場合、実際の使用に当たっても、直角以上に家具内部に食い込むような使用がなされることは、ドイツのヒンジメーカーであるメプラ社の商品カタログ(甲三の1ないし3のもの)からも明らかである。

メプラ社の右カタログの36頁には、直角以上に折曲するヒンジが記載されているところ、同37頁右欄には、当該ヒンジを、システムキッチンに使用する例が図示されており、いずれも扉が取り付け枠に対し直角以上に食い込むようになっているため、かかる使用形態においては、ヒンジも当然、直角以上に折曲するのである。このような家具において被告ヒンジ三を用いれば、当該ヒンジも直角以上に折曲する態様で使用されることになるのは明らかである。

家具においては、扉と取付枠の関係が直角に限らないことは自明のことであり、ユーザーは、どのような家具に使用するか、どのような角度まで開く所に使用するのかということを基準にしてヒンジを選択するのである。ヒンジはあくまでも家具の扉の開閉部分に使用される一部品にすぎず、直角より深く食い込むような角度で扉を閉じる家具であればその角度を基準とし、直角にまで至らないような浅い角度で扉を閉じる家具であれば、その角度を基準としてヒンジが選択されることは当業者にとって自明のことである。被告ヒンジ三が、別紙物件目録三の一ないし四の図面に明らかなように、前者の場合に適するものであることは明らかである。

被告は、後記2(二)(4) のとおり、「そのカタログにおいて(甲四の2のもの)、被告ヒンジ三を扉に取り付けた状態を図示しているが、被告ヒンジ三は、インセットタイプであるから、扉が略九〇度で閉じた状態が閉扉位置となっているのである」と主張するが、検甲五(被告ヒンジ三を使用した家具の模型)は、インセットタイプである被告ヒンジ三が鋭角で閉扉となる扉に取り付け得ることを示すものである。

また、被告は、後記2(二)(4) のとおり、「昭和五五年二月一日、同五月一日、同七月一日発行の「室内」(乙一三の1ないし3のもの)記載のヒンジをもって、被告ヒンジ三と同仕様のヒンジである」旨主張する。しかし、右パンフレットに記載されているヒンジは、扉が取付枠に対し内側に入る形式(いわゆるインセットタイプ)という点では被告ヒンジ三と同じであるが、右各ヒンジは、そもそも構造上直角以上に折曲することを予定しているものではなく、ヒンジが直角以上に折曲する被告ヒンジ三とは、その構造が明らかに異なるのであり、同じ仕様のヒンジとはいえないことは明らかである。また、原告のカタログ記載のヒンジ(乙一三の5のもの)もまた、構造上ヒンジが直角以上に折曲することを予定しているものではない。

(4)  また、次の事実からみるならば、被告は、被告ヒンジ三を装着した扉が閉じる過程で同ヒンジの内リンク5が切欠6内に受容される使用態様、つまり「同ヒンジが最大限折曲した状態で使用されること」を当然のこととして、同ヒンジを製造販売していることが認められる。

すなわち、被告は、被告ヒンジ三と同型のヒンジ(検甲三)につき、カップdとアームbとが最大限に折曲した状態において、内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6内に入り込まないようにしたものを別個に製造販売しているのである。右ヒンジは、別紙参考図(一)記載のように、被告ヒンジ三に比べ、端部11がより長く、かつ外リンク1のアームと端部11のなす角度をより広角度にしている。そのため、カップdが閉じる過程で、内リンク5の一部が切欠6内に受容される前に、端部11がストッパー12に当接し、これ以上カップが閉じることはない。右ヒンジは、このような構造により、最大限折曲した状態(実用新案登録請求の範囲にいう「閉扉時」)においても、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された切欠6内に入り込むことがないようになっているのである。

被告ヒンジ三は、以上に述べたとおりであるから、検甲三の右ヒンジとは異なり閉扉時に内リンク5の一部が外リンク1の切欠6内に入り込む構造を有しているものであるから、本件考案の構成要件Cを具備している。

(5)  被告は、後記2(二)(6) のとおり、「ヒンジが最大限折曲したときをもって「閉扉時」とすると、最大限折曲したときには、バネは既に余力を失って扉を取付枠(側板)側に押しつける力を欠き閉扉状態は不完全となる」と主張するが、そのようなことはあり得ない。すなわち、技術者がヒンジの開閉角度を設計する場合、まず、どこまで開閉させるヒンジかについて決定し、その後、仮に直角の状態で扉を閉めることを予定する場合は、ヒンジ自体の角度は余裕をみて直角より二、三度内側に入り込むように設計するのである。このように右余裕を含めた状態が原告のいう「ヒンジが最大限折曲した状態」である。原告は、被告ヒンジ三において、直角に比べ折曲する角度が極めて大きいことから、被告ヒンジ三は、直角以上に折曲することを予定して設計したものだと主張しているのである。

(6)  被告は、後記2(二)(7) のとおり、実公昭五八-二五〇九三号公報(乙一八)を引用し、原告も「閉扉時」が直角であると認識していると主張する。しかし、被告の引用するところは別考案の実施例の説明の箇所であり、閉扉状態として略九〇度の場合の例をもって説明しているだけであって、その考案の場合ですら「閉扉」が「直角」と定義しているものでもない。まして別考案の実施例の説明が本件考案の「閉扉」の意味を限定するなどという主張は失当である。

2  被告の主張

(一) 被告ヒンジと構成要件Bについて

本件考案の構成要件Bの「拡幅リンク」の「拡幅」とは「幅全体が同じ程度に広いもの」「狭幅リンク」の「狭幅」とは、「幅全体が同じ程度に狭いもの」と解すべきであるが、被告ヒンジの内リンク5は、軸着部分だけが狭幅で、それ以外は、外リンクの幅とほぼ同一で狭幅になっていない。

したがって、被告ヒンジは、本件考案の構成要件Bを充足しない。

(二) 被告ヒンジ三と構成要件Cについて

(1)  本件考案の構成要件Cは、「閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く・・・切欠窓孔を設け」ることが要件になっていて、「受容」の有無は「閉扉時」をもって判断することが不可欠である。

ところが、被告ヒンジ三では、「閉扉時」即ち略九〇度の角度で閉扉したときには、内リンク5の一部が外リンク1の切欠6に入り込む構造にはなっていない。

したがって、被告ヒンジ三では、本件考案が構成上不可欠な要素としている「閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く・・・切欠窓孔を設け」との要件を充足しない。

(2)  原告は、前記1(三)(1) において、本件考案の構成要件Cの「閉扉時」とは「ヒンジが最大限折曲したとき」と同義であると主張し、その理由として、「本件考案は、あくまでヒンジの構成をその対象としているのであって、その構成の説明の一環として「閉扉時」との表現を用いたにすぎない」と主張している。

しかしながら、実用新案登録請求の範囲に、「閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」と明記してある以上、「閉扉時」とは、その文言のとおり「扉」を閉じた時を意味するものである。

そして「閉扉時」の技術的意義について、実用新案登録請求の範囲の記載だけでは疑義が存する場合に、これを明確にするにあたっては、本件明細書の考案の詳細な説明と図面とを参酌すべきである。

そこで、まず本件明細書の考案の詳細な説明の欄をみると、「第1図により説示した閉扉時にあって」(本件公報三欄三三行目)との説明で第1図が閉扉時を示すものであることを記載しており、その第1図では、扉取付け枠(側板)に対して「扉が直角に閉ざされている」閉扉時の状態が図示されている。そしてこの第1図以外には、本件公報の中で「閉扉時」の具体的な状態を開示している図面は何もない。

次に、本件明細書の考案の詳細な説明によると、「本考案は第1図、第2図に例示した如く、扉取付枠aに固定するマウンティングプレートbと、扉cの凹所c′に嵌着した後、ビス止め等にて扉cを固定するカップ形状のソケットdをリンクe・fにて連結してなるヒンジ」(本件公報一欄一七ないし二一行)と記載されており、ヒンジのみで考えるのではなく、ヒンジを扉に取り付けた状態で考えることを前提としている。

右の本件考案の詳細な説明の欄の記載と図面から、本件考案でいう「閉扉時」とは「扉が取付枠(側板)に対して直角に閉ざされた時」であることが理解される。

(3)  原告は、前記2(三)(2) において、「閉扉時」の記載をもって「ヒンジが具体的に用いられた扉の状態を指摘するのではなく、ヒンジそのものの構成を、拡開ないし折曲という動きに即して説明するための便宜的に採られた表現」と主張しているが、いやしくも実用新案登録請求の範囲に構成要件として明記されている文言をもって、便宜的な表現と解すること自体、全くの独断であり、理由がない。

本件明細書の記載の中では、「閉扉時」「閉扉」「閉扉状態」「開扉」等、「扉」の文字を含む用語が各所に使用されているのであるが、これら用語の使用を総合すると「閉扉時」とは、まず、ヒンジと扉との使用関係において「扉が閉ざされる時」の意味と理解するのが当然で、それをあえて本件明細書上の記載もない「ヒンジが最大限折曲した状態」の意味に解することは、非常に不自然である。

少なくとも「閉扉時」とは、ヒンジの使用態様を前提とするか、あるいはその態様を予測した文言と解すべきで、「閉扉時」が使用態様と無関係に成り立つものとは到底考えられない。

また、原告は、前記2(三)(2) において、「第2図は、マウンティングプレートbに対してソケットdが開いた状態であって、これを「開扉状態」と表現しており、第1図は、マウンティングプレートbに対してソケットdが閉じられた状態であって、これを「閉扉状態」と表現している。」と主張するが、右第2図においては、扉が開いた状態を図示しているから「閉扉状態」と称したにすぎず、また第1図においては、扉が閉じた状態を図示しているから「閉扉状態」としたにすぎないのであって、殊更にマウンティングプレートbとソケットdの関係を言い表わすために、「開扉状態」「閉扉状態」の用語を使用したものではない。

さらに、原告は、「第6図は拡幅リンクの切欠窓孔に狭幅リンクの一部を受容した状態を示しているものであるが、扉はまったく図示されていないにもかかわらず「閉扉状態」と表現している」と指摘して、閉扉とは、扉が閉ざされた動作とは関係がない旨主張するが、本件考案は、第1図ないし第4図に示された従来ヒンジにおいて、左右の軸承部の分断に基づく強度低下を、第1図の軸承部の先端に連設部を設けることによって改善したことを目的の一つとしている。そのため第6図は、その改善した部分のみを拡大して図示したものにすぎず、その余の構成は第1図のものと変わらないために、これを省略したものと考える。そして第1図をもって閉扉時を示すものと指摘している以上(本件公報三欄三三行)、第6図も閉扉時によるものであることは理の当然であり、第6図には扉が図示されていないから該図は、「閉扉状態」ではないとする原告の主張は、誤りである。

(4)  原告は、前記2(三)(3) において、「家具によっては、扉が取付枠に対し直角以上に家具内部に食い込むような使用態様も存する」旨主張するが、被告ヒンジ三においてはそのような使用形態は、あり得ない。すなわち、被告は、そのカタログにおいて(甲四の2のもの)、被告ヒンジ三を扉に取り付けた状態を図示しているが、被告ヒンジ三は、インセットタイプであるから、扉が略九〇度で閉じた状態が閉扉位置となっているのである。なお、被告ヒンジ三は、鋭角に折曲することが可能な構造となっているが、これは、製造コストの観点から、圧倒的に数量の多いアウトセットタイプの被告ヒンジ一及び二の各1ないし4、同四の1、2のリンク部材を、数量の少ないインセットタイプの被告ヒンジ三に流用した結果にすぎず、被告ヒンジ三の外リンク1には、切欠は本来必要ないものである。

また、昭和五五年二月一日発行の「室内」(二月号一〇八頁)・昭和五五年五月一日発行の「室内」(五月号一一六頁)・昭和五六年七月一日発行の「室内」(七月号一二七頁)(乙一三の1ないし3)には、被告ヒンジ三の使用状態が写真入りで紹介されており、同写真によると「扉を閉じた状態」とは、ヒンジが最大限折曲した状態ではなく、「扉が取付枠(側板)に対して直角に閉ざされた状態」であるとされている。

また原告自身の「カタログ」(乙一三の5)のスライド蝶番の項には、すべて「閉扉時」と「開扉時」の解説図面が詳細に記載されており、そこでは「閉扉時」とは「ヒンジが最大限折曲したとき」ではなく、「扉が取付枠(側板)に対して直角に閉ざされた状態」であるとされている。

(5)  原告は、前記2(三)(4) において、「被告が、被告ヒンジ三と同型で、カップdとアームbとが最大限に折曲した状態において、内リンク5の一部が外リンク1に穿設した切欠6内に入り込まないようにしたもの(検甲三)を、別個に製造販売しており、この事実から、被告ヒンジ三が本件考案の構成要件Cを具備することがいえる」旨主張する。

しかしながら、まず検甲三のヒンジは、カップdとアームbとが最大限に折曲した状態においては、内リンク5の一部が外リンク1に穿設した切欠6内に入り込むようになっている。

次に、検甲三のヒンジは、製造当初、外リンク→ばね→内リンク5の順序で装着しており、外リンク1とアームbの間からばねを装着するに際し、外リンク1とアームbの間隔を広くして装着し易くするため、原告のいうストッパー12を設けて、外リンク1の端部11がストッパー12に当たるようにして、外リンク1がアームb側に倒れ込まないようにしたものであり、原告が主張するように、内リンク5の一部が外リンク1に穿設した切欠6内に入り込まないようにするため、ストッパー12を設けたものではない。

なお、被告は、平成元年六月、製造工程を、ばね→外リンク→内リンク5の装着順序に変更したので、原告のいうストッパー12は不要となり、以後検甲三のヒンジは製造していない。

(6)  ばねを装着したこの種のヒンジでは、家具等に取付けた場合、扉は、閉扉時後もばね力により取付枠(側板)側に押しつけられて、閉扉状態を完全なものとしている。逆に言えば、このばね力の作用を受けなければ、たとえ扉は閉ざされていても閉扉状態は不完全である。そのため、この種のヒンジの製造にあたっては、閉扉時後も扉を取付枠(側板)に押しつけておく余力をばねに与えて設計するのが構造上要求されており、技術的常識となっている。

ところが、原告のいう「ヒンジが最大限折曲したとき」をもって「閉扉時」とすると、最大限折曲したときには、ばねは既に余力を失って扉を取付枠(側板)側に押しつける力を欠き、閉扉状態は不完全となる。したがって、原告の「閉扉時」とは「ヒンジが最大限折曲したとき」の意義である旨の主張は、ヒンジの構造上要求される技術的常識をも無視した解釈である。

(7)  原告は、スライド蝶番に関して実公昭五八-二五〇九三号公報(乙一八)に示す考案を既に出願しているが、この公報における記載によると、「しかしてこのような構成からなるヒンジでは第1図で示すように扉Aが取付枠Bに対して略90度となった閉扉状態において」(右公報四欄一三ないし一五行記載)と説明しており、閉扉状態とは、同公報第1図(イ)のように取付枠に対して扉が略90度をなす状態を意味するものであることを、本件考案以外の明細書において、具体的に述べている。

このことからすると、スライド蝶番における原告自身の「閉扉状態」についての認識は、扉が取付枠に対して略直角状態にあること以外にはない。そして本件考案も略直角な閉扉状態を図示した第1図をもって「閉扉時」と説明し、かつ、本件考案につき乙一八の考案の閉扉状態と区別しなければならない特段の事情もないことから考えて、本件考案の「閉扉時」も「扉が略直角に閉ざされた時」の意味に理解するのが相当である。

(三) 構成要件C及びDの限定解釈と被告ヒンジについて

(1)  本件明細書によると、本件考案の出願人は、第1図、第2図に例示したヒンジでは、<1>「軸承部i、iは切欠溝jによって第3図・第4図に示した如く左右に分断されてしまい、軸承部i、iの強度が低下する問題点がある」(本件公報二欄一七ないし二〇行)と指摘し、さらに、前記の軸承部i・iの左右分断により、<2>「軸ピンg′は当該圧入時に偏芯し易く、その先端が他方の軸承部iに嵌入せず噛み合うなどして、当該軸承部iを損じ、この結果不良品の発生率が大となり、また手作業の場合にも軸ピンg′の嵌入に手間どるといった問題点があった」(同三欄一ないし五行)と述べている。そして本件考案では、右<1>、<2>の問題点を解決するために、「軸承部の先端側に切欠窓孔を設けて連設部を適切に形成する」(同三欄一五ないし一六行)という解決手段を採用し、これにより、「連設部にて軸承部を補強すると共に、軸ピンのガイド役をも果させ、これにより自動組み立ての作業性を向上し、かつ不良品の発生を抑止すると共に、給油の貯溜量を増大して、長期にわたる円滑な作動を保証しようとするものである」(同三欄一七ないし二一行)。

このように、従来ヒンジが軸承部i・iの強度の低下を招くのは、軸承部i・iが第3図に示すごとく左右に分断されている状態にあるからであり、この第3図を課題の対象と特定して本件考案がなされていることは、本件明細書において(本件公報二欄一七ないし二〇行)明記されている事実である。そして第3図で表している左右分断の状態とは、軸承部i・iの全周にわたる左右分断の状態であることは、同図を見れば疑いの余地もない。

本件考案の軸承部i・iの強度低下も、また軸ピンg′の圧入時の偏芯離脱も、共に、第3図を課題の対象として本件考案がなされたものであることを考えると、「切欠窓孔」が軸承部i・iの円周方向にどのように切り込まれているかは、課題の対象となった第3図を前提として把えるのが当然である。そして第3図によれば、軸承部i・iの左右分断は、軸承部i・iの全円周方向にわたっている状態が示されているのであるから、本件考案において軸承部の先端側に「連設部」を形成するとは、かかる左右分断状態の軸承部の先端側に「連設部」を形成することに外ならない。

次に、「連設部」のガイド役と「切欠窓孔」の関係について述べる。「連設部」のガイド役の機能は、軸ピンの枢着時にあたって、「軸ピン4が切欠窓孔6から偏芯離脱すること」(本件公報四欄二八行)をなくする点にあるから、この「連設部」のガイド役の機能からすると、本件考案において「切欠窓孔」の大きさは、少なくとも軸ピン4の偏芯離脱が可能なものであることが必須といえる。具体的には、軸ピン4の直径よりも円周方向に対する「切欠窓孔」の切り込みの方が大であることが必須となる。

(2)  本件考案では、従来スライドヒンジの軸承部がこのように完全に左右に分断されているために該部分の強度低下の問題、軸ピン挿入時のガイド性の欠如の問題及び油の貯溜性の問題などが、解決する課題として提起されるに至ったことは前記(1) のとおりである。

これに対し、被告ヒンジでは、従来ヒンジと相違して、軸承部の半周近くにおよぶ幅広い第二軸カバー部10を有するために、この第二軸カバー部10が軸ピン挿入時のガイドの役割を果たし、また、油の貯溜性の役割をも奏することは構造上明らかである。むしろ軸承部の半周近くにおよぶ幅広の面からなる第二軸カバー部10の存在のために、右ガイド性、貯溜性共に非常に優れている。また、被告ヒンジは、右のごとく第二軸カバー部10を有するため、強度低下の問題は全く起こらず、そのため軸承部全体における強度低下にしてもその度合は本件考案に比べて非常に小さい。要するに、被告ヒンジは、本件考案が明細書中で指摘している従来スライドヒンジの問題点に相当するものを一切具備していないのである。このように本件考案の課題の範囲にも属さず、本件考案の前提を欠く被告ヒンジについて、単に「第一軸カバー部9」を設けただけで、本件考案の技術的範囲に属すると主張すること自体に無理があり、誤りなのである。

また、被告ヒンジの切欠6は、軸承部2のカール円周のほぼ三分の一程度であるため、軸ピン4は、軸承部2への枢着時に切欠6側に外れる余地がなく、偏芯離脱するということは全くない。

したがって、被告ヒンジの第一軸カバー部9には、本件考案の「連設部」が有する軸ピン4を偏芯離脱させないというガイド役に相当する機能はない。被告ヒンジの第一軸カバー部9にガイド機能があるとすれば、それは軸承部2・2の部分を一本のパイプに見立てて(枢着時に軸ピン4は切欠6側に偏芯離脱をしないのだから、該部分は一本のパイプと変わらない)、管状(パイプ)の中に軸ピンを圧入する際に通常受ける単なるガイド機能にすぎず、それは本件考案の「連設部」の有する軸ピンを偏芯離脱させまいとするがごときガイド役の機能とは本質的な差異がある。被告ヒンジにおいて「第一軸カバー9」を設けた理由は、参考図(二)の図5に示すように、内リンクのカール部外周と外リンクの第一軸カバーの外周とを「第一軸カバー部9」を設けることによって接触可能とすることにより、図6(一本ピン)、図7(U字ピン)に示すカップ穴ピッチに内外両リンク間のカールピッチを簡単に一致させることができるようにした点にあり(内外両リンク間のカールピッチとカップ穴ピッチとの一致は、予め設計段階で設定してある)、これにより組立作業を極めて容易にして製造上の効率化を計るものにして、本件考案のようなガイド性の付与とは全く無関係である。

したがって、軸ピンの偏芯離脱の虞れが全くない被告ヒンジの第一軸カバー部9には、本件考案でいうガイド役の機能は、全く不必要なのであり、被告ヒンジの「切欠6」及び「第一軸カバー部9」は、本件考案の「切欠窓孔」及び「連設部」に当たらず、被告ヒンジは、本件考案の構成要件C・Dを充足せず、本件考案の技術的範囲には属さない。

(3)  被告ヒンジにおける顕著な効果

<1> 被告ヒンジの「切欠6」は、軸承部2の全周(円周)のほぼ三分の一程度にとどまり、「切欠6」の先端には「第一軸カバー部9」が、また後方には「第二軸カバー部10」が左右の軸承部2・2と一体に形成されている。特に、「第二軸カバー部10」は、軸承部2の全周のほぼ二分の一に相当する広さである。右のように、強度低下の原因となっている「切欠6」が軸承部2・2のほぼ三分の一程度にとどまる被告ヒンジと、「切欠窓孔」が先端側の「連設部」を残して軸承部2の全周にわたって形成されている本件考案とでは、両者の補強の度合が同一程度であるはずがないことは、技術常識からしても十分に理解でき、被告ヒンジの方が軸承部補強の効果は極めて大である。

被告ヒンジは、右の構成により、軸承部の補強(強度)において、本件考案の構成要件C・Dに比較して、効果上、顕著な差異があり、到底本件考案の技術的範囲に属するものではない。

<2> 貯溜性の対比

被告ヒンジは、幅広い「第二軸カバー部10」の存在により軸承部の半周近くにおよんで潤滑油の貯溜性を発揮するが、本件考案は、閉扉時に切欠窓孔内に狭幅リンクを受容可能とする関係が必要であるために、軸承部の先端にはこのような幅広い「連設部」を形成することが構成上不可能であり、そのため貯溜性も被告ヒンジのごとく大きくすることはできない。

<3> U字ピン

被告ヒンジ一及び二の各1・2並びに被告ヒンジ四の1・2の軸ピンとして使用されるものは、二本のピンの機能を有する「U字ピン」である。この「U字ピン」を挿着するには、「U字ピン」の一方のピンの先端を内リンク5の管状部分に挿入すると共に、他方のピンの先端を軸承部2側に差し込んでU字の頭部を適当に加圧すれば、内リンク5側の管状部分に挿入される「U字ピン」の一方のピンがガイド機能を発揮して、「U字ピン」の他方のピンの直進性が確保されたまま、全体が挿着される。すなわち、被告ヒンジの場合、内リンク5の管状部分と、これに挿入されるU字ピンの一方のピンの挿入という特殊な構成によって、他方のピンの偏芯離脱を確実に回避するもので、偏芯離脱は全くない。

ところが、本件考案で開示されている軸ピンは、本件公報の第3図・第5図で図示されるように、一本ピンの構成で、それ以外には開示されているものがない。そして本件考案では、一本ピンであるがために挿入時に直進性が確保されず、軸ピンの偏芯離脱という問題が起こる。そしてこの偏芯離脱を回避するため、本件考案では軸ピンの直進性をガイド性を備える「連設部」を設けることにより確保し、挿入時の軸ピンの偏芯離脱を防止するものである。このことからすると、偏芯離脱を回避する機能は、本件考案では「連設部」のガイド役に存し、これに対して被告ヒンジでは、内リンク5側の管状部分と「U字ピン」の組合わせという特殊構造に基づいて、右の問題点を解決するものである。

両者の右のような構造上の差異により、作用効果にも次のごとき相違をもたらす。すなわち本件考案では、軸ピンの挿入時に軸ピンを「連設部」に沿わせて圧入しなければ「連設部」のガイド役としての機能は発揮されず、軸ピンは偏芯離脱する。ところが被告ヒンジでは、「U字ピン」の一方のピンを内リンク5の管状部分に挿入すれば、他方のピン部分は、確実に直進性を得て、偏芯離脱の虞れは全くない。また被告ヒンジでは、右の特殊構造によって、内リンク5側と外リンク1側に、一工程で、同時に二本のピンに相当するもの(U字ピン)を挿着できる利点があり、能率的である。

右のように、被告ヒンジ一及び二の各1・2並びに被告ヒンジ四の1・2は、軸ピンの構成・作用・効果について本件考案と顕著な差異があり、技術的範囲に属さないことは明瞭である。

(四) 本件考案の公知技術について

本件考案は、以下に述べるとおり出願前公知であった。

(1)  実願昭五〇-五八四八号の明細書及び図面(実開昭五一-八八七六六号で出願公開されたもの、以下「乙二七の明細書」という。)及びその実用新案公報(乙二の公報)には、本件考案と同一の考案(以下「乙二七の考案」という。)が開示されている。

すなわち、乙二七の明細書の実用新案登録請求の範囲には、「互いに回動させるよう対向させた2つの回動部材に連結部材の両端を枢支し、さらにこれら回動部材に別体なる連結部材の両端を、一方の回動部材においては前記連結部材の枢支点より外側に、他方の回動部材においては前記連結部材の枢支点より内側端側にそれぞれ枢支してなる蝶番において、一方の連結部材には上記枢支点近傍に切欠箇所を形成して、他方の連結部材が該切欠箇所に進入して当該枢支点における枢支軸に押当するまで両回動部材を回動自在とした蝶番における広角度回動機構。」が示されているところ、本件考案の構成要件は、いずれも次に述べるとおり乙二七の明細書に開示されている。

まず、本件考案の「マウンテイングプレートとソケット」というのは、乙二七の明細書の「互いに回動させるよう対向させた2つの回動部材1,2」にほかならず(突き出した方の回動部材1がマウンテイングプレートに、受け口状になっている回動部材2がソケットに相当する)、また本件考案の「リンク機構」というのは乙二七の明細書にいう「連結部材9,10」にほかならないので、構成要件Aは乙二七の明細書に開示されている。

次に、本件考案にいう「拡幅リンク」は、乙二七の明細書の「枢支点近傍に切欠箇所を形成した一方の連結部材9」にほかならず、また本件考案にいう「狭幅リンク」は乙二七の明細書の「該切欠箇所に進入する他方の連結部材10」にほかならず、右連結部材9、10で2つの回動部材1、2をリンクする機構になっているので、構成要件Bも乙二七の明細書に開示されている。

また、前記のとおり乙二七の明細書の回動部材2は本件考案のソケットに、同明細書の連結部材9は本件考案の拡幅リンクにそれぞれ該当するところ、乙二七の明細書の連結部材9には枢支ピン5、8がありこれは本件考案の軸ピンg・g′に相当するが、連結部材9の枢支ピン5、8は回動部材2に枢着可能となっているので(乙二七の明細書の第2図)、「ソケットに軸ピンにて枢着可能なる拡幅リンク」は乙二七の明細書に開示されている。さらに、乙二七の明細書の「一方の連結部材9は、上記枢支点近傍に切欠箇所を形成して、他方の連結部材10が該切欠箇所に進入して当該枢支点における枢支軸に押当するまで両回動部材を回動自在とした広角度に回動できる蝶番」となっているが、これは「拡幅リンクの左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部には、拡角度に開扉可能となるように、開扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」いることにほかならない。従って、構成要件Cも乙二七の明細書に開示されている。

最後に構成要件Dも乙二七の明細書に開示されている。ただ、この点については、乙二七の明細書の第3図(イ)には一方の連結部材9の端辺に開口するコ字状の部材嵌入溝(9a)を有する蝶番における広角度回動機構の実施例が示されており、そこには「両側カール部の先端側を連設してなる連設部」がないので、構成要件Dの開示はなされていないものと原告は反論するかもしれない。しかし、それは明らかに誤っている。なぜなら、乙二七の明細書において、一方の連結部材9に形成されるのは他方の連結部材10が深く進入するための空間であって、したがって、それは連結部材9が切欠いてあればよく、進入するに支障がない限り特定の形態をとる必要はない。乙二七の明細書にも、一方の連結部材9に形成されるのは「切欠箇所」とあるだけであり、これが本件考案でいう「切欠窓孔」を含まないという理屈はどこからも出てこない。けだし、「切欠窓孔」というのは、「切欠箇所が窓孔状態になっていること」にほかならず、「切欠箇所」の下位概念(一事例)にすぎないからである。

乙二七の明細書の第3図(イ)の部材の端辺に開口したコ字状のものは単なる実施例であって、乙二七の明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されている考案は、そのような特定の構成のものに限定されているものではない。実施例に限定して権利範囲を解釈することの不合理さは説明するまでもない。切欠箇所が、連結部材の端辺に開口するコ字状のものに限定されないことは、切欠箇所が形成される場所から見ても明らかである。すなわち、「一方の連結部材には上記枢支点近傍に切欠箇所を形成して」とある。「近傍」とは、広辞苑によれば「近所、近辺」という意味であり、ある所から距離的に近い空間を意味するものであり、それ以上特段の限定はないものである。もし乙二七の考案が、前記実施例のような部材の端辺に開口したコ字状のものに限定されるのであれば、切欠箇所が形成される場所を「枢支点近傍」と、広く抽象的に記載する必要はない。乙二七の考案が部材の端辺に開口したコ字状の実施例に限らず、連結部材の端辺にまで延びないで連設部が残っている矩形状のものも含むものであることは明白である。

ちなみに、乙二七の明細書の「考案の詳細な説明」中にも上記切欠箇所を上記実施例のような「一方の連結部材の端辺に開口するコ字状のもの」に限定する記載は全くなく、むしろ上記切欠箇所は明細書中では「部材嵌入溝(9a)」(乙二七の明細書三頁一八行ないし一九行)と表現し、また、「一方の連結部材9には上記枢支点近傍に切欠箇所を形成して、他方の連結部材10が該切欠箇所に進入して当該枢支点における枢支軸7に押当するまで両回動部材を回動自在とし」と記載している(同五頁一三行ないし一六行)。以上の記載中「近傍」なる意味は、既に述べたとおりであり、また、「溝」とは「広辞苑」によれば「地を細長く掘って水を通ずる所」「一般に、細長く凹んだところ」とあり、部材の端辺に開口したコ字状のものに限定されない。

さらに、乙二七の考案の目的や作用効果から考えても、上記「切欠箇所」は上記第3図(イ)に示される「一方の連結部材の端辺に開口するコ字状のもの」に限定される理由は全くない。すなわち、乙二七の考案の目的は「2つの回動部材を2枚の連結部材により結合した蝶番において、その開閉動作角度を大きくし得るようにすること」(同明細書一頁一六行ないし一八行)にあり、そのため「一方の連結部材には上記枢支点近傍に切欠箇所を形成して、他方の連結部材が該切欠箇所に進入して当該枢支点における枢支軸に押当するまで両回動部材を回動自在とした」(同明細書一頁一〇行ないし一三行)ものであるから、上記「切欠箇所」は他方の連結部材がこれに進入して枢支軸に押当たることができれば足りるのである。

なお、本件考案の拡幅リンクでは切欠窓孔6を矩形状にプレス加工し、連設部片7aが残るようにしているが、このような構成とすることは後に説明するとおり、乙二七の考案の出願日以前から公知、公用若しくは周知のことであり、何ら目新しいものではない。

そもそも、当業者が乙二七の明細書を見たときその実施のため普通に考えることは、本件考案の第7図の実施例のように板状体にプレスにより切欠窓孔を形成することであり、乙二七の考案の目的から考えて切欠窓孔を板状体の端片に開口するコ字状のものとすることに全く意味がないのであるから、ことさらにそのような構成とする発想は生じないのである。

乙二七の明細書の第3図(イ)に示す実施例が端片に開口するコ字状のものであることは明らかであるが、これは単なる実施例にすぎず、仮に部材の端辺に開口したコ字状にする構成に何か目的や意味があるとしても、それは乙二七の考案とは関係のない不要な構成である。

(2)  実開昭五五-一七六九六三号の公開公報(以下「乙四の公開公報」という。)にも、本件考案と同一の考案(以下「乙四の考案」という。)が開示されている。

すなわち、乙四の公開公報の実用新案登録請求の範囲には、「第一連繋部材と第二連繋部材との二枚の連繋板を用いて取付部材と可動部材とを対向回動自在に相互連繋してなる蝶番において、取付部材12に一端を回動自在に軸着せる第一連繋部材5に切欠溝部2を形成して、該切欠溝部2の両側の分岐側片33の各端部を可動部材17の一端の内部両側19、19にそれぞれ軸ピン20、20を介して各別に回動自在に軸着すると共に、上記切欠溝部2内に、取付部材13と可動部材17とを相互連繋する第二連繋部材10の調整湾曲部8を介入自在にしてなる広角拡開蝶番装置。」が示されている。

上記広角拡開蝶番装置における第一連繋部材に形成された切欠溝部はその両側に分岐側片を形成しているが、本件考案における連設部が残されている構成をも含むものである。乙四の公開公報の第3図に示された実施例は、本件考案の連設部を有しないものであるが、その実用新案登録請求の範囲の記載では切欠溝部2は、「第一連繋部材5に切欠溝部2を形成し」とあるように第一連繋部材5の端片に開口するコ字状のものとは表現されておらず、また、乙四の考案の明細書三頁八行及び一一頁三行には「図面のものは本考案の実施の一例」であると記載している。

更に、乙四の考案の目的や作用効果も、乙二七の考案と同一であり、これからみても乙二七の考案について既に説明したように乙四の考案には連設部を有するものが当然含まれているものである。

(3)  本件考案の拡幅リンクでは切欠窓孔6を矩形状にプレス加工し、連設部片7aが残るようにしているが、このような構成とすることは、次に述べるとおり、本件考案出願のずっと以前の乙二七の考案の出願日以前から、公知、公用若しくは周知のことであった。

<1> 実公昭三五-一〇五一八号公報(以下「乙七の公報」といい、同公報記載の考案を「乙七の考案」という。)は、スライドヒンジではなく平らヒンジ(一軸ヒンジ)に関するものであるが、乙七の公報中には、「3,4は夫々軸5を挿通する管状部形成用耳であって、この耳3の中央6を切欠いて除去6してあり、・・・耳片3,4をそれぞれ巻回して管3,4を形成し」との記載がある(乙七の公報一頁左欄一〇ないし一四行目、第1図、第3図、第4図参照)。乙七の公報の管3(軸承部)の中央部に設けられた切欠6は、本件考案の「切欠窓孔」に相当する。すなわち、乙七の公報は、乙二七の考案及び乙四の考案の出願前から、二個の軸受を左右に分断するための切欠箇所または切欠溝部を形成するに際し、連設部を残すことが公知、公用、若しくは周知であったことを示すものである。

<2> 実公昭四三-一四二五〇号公報(以下「乙六の公報」といい、同公報記載の考案を「乙六の考案」という。)は、弾節蝶番を示し、これには軸5を挿通する雌筒2を形成する翼板Aに矩形状の弾板挿込孔10が形成されており、この挿込孔10によって左右に分断された筒孔2′・2′間にはこれを連結する連設部が示されている(乙六の公報一頁、第2図、第3図参照)。乙六の公報も、スライドヒンジと同じ技術分野の「弾節蝶番」に関し、翼板Aに設けられた欠口2″は本件考案の切欠窓孔に相当する。すなわち、乙六の公報は、乙二七の考案及び乙四の考案の出願前、二個の軸受を左右に分断するための切欠箇所または切欠溝部を形成するに際し、連設部を残すことが公知、公用、若しくは周知であったことを示すものである。

<3> 英国特許第一一八五三一八号明細書(以下「乙九の明細書」といい、同明細書記載の発明を「乙九の発明」という。)にも、両側カール部23a、23bの先端側を連設してなる連設部が形成されていることが開示されている(乙九の明細書図1、図2及び図17参照)。

<4> 英国特許第一二四九〇四二号明細書(以下「乙二四の4の明細書」といい、同明細書記載の発明を「乙二四の4の発明」という。)にも一方側のリンク21の端部23(軸承部)の中央部に小さな窓24(切欠窓孔)が設けられている旨が開示されていると共に、軸承部23の両カール部23a、23bの先端側を連設してなる連設部が形成されていることが開示されている(同図7参照)。

<5> 英国特許第一三三一一二三号明細書(以下「乙二四の5の明細書」といい、同明細書記載の発明を「乙二四の5の発明」という。)にも、切欠窓孔32が形成されていると共に、軸承部の先端側に両カール部の先端側を連設してなる連設部が形成されていることが開示されている(同図8ないし図11参照)。

(4)  本件考案の出願日より前の一九七九年に出願公開されている英国特許第二〇〇七七五六号明細書(以下「乙三〇の明細書」といい、同明細書記載の発明を「乙三〇の発明」という。)には、本件考案と同様に、二個のリンクより成るリンク機構を用いた、いわゆるスライドヒンジに関する発明が開示されており、同明細書の蝶番アーム1、ハウジング2は、それぞれ本件考案のマウンテイングプレートb、ソケットdに相当し、同じく蝶番バー3、4及び開口部15はそれぞれ本件考案の外リンク1、内リンク5及び切欠窓孔6に相当するものである。そして、乙三〇の明細書では、右ハウジングに蝶番ピン(本件考案における軸ピン)にて枢着可能なるよう蝶番バー3の左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部があり、この軸承部に開口部15(本件考案における切欠窓孔)が設けられている。また、乙三〇の明細書の図1に示すハッチングから明らかなように、蝶番ピン6を取り巻くカール部の先端側に本件考案におけると同様の連接部8が形成されている。

そして、乙三〇の明細書のスライドヒンジは、扉の開閉により図1に示す状態から図3に示す状態に変化するのであるが、この変化に伴い蝶番バー3に設けられた開口部15にはハウジング2に突設した接合台16の先端が入り込むものである(図1)。仮に開口部15がなければ扉の開閉操作において接合台16の先端が蝶番バー3の面に突き当たり、図1に示すようには回動し得ないのであり、扉の開閉範囲が狭くなって所期の目的が達成できなくなるものである。すなわち、乙三〇の明細書の開口部15は、本件考案における扉の拡角度を大きくするための切欠溝と同一の目的、構成、作用効果を達成するものである。また、乙三〇の明細書の連接部8が本件考案における連接部と同様の技術的意義を有することも明らかである。

なお、乙三〇の発明では、開口部15に受容されるものは接合台16であって本件考案のリンク5に相当する蝶番バー4ではないが、扉開閉に応じて接合台16が開口部15に出入りする点では本件考案の作動と同様であり、接合台16に替えて、リンク等の扉の拡角度を大きくするのに支障となる部分を開口部15に入り込むように構成することは、当業者が極めて容易になしうることであり、単なる設計変更にすぎない。乙二七の明細書及び乙四の公開公報において本件考案の構成要件はすべて開示されているのであるが、仮に右各明細書に「連設部」の開示がないとの立場をとったとしても、本件考案は、右各考案と乙三〇の考案を組み合わせることにより当業者なら誰でも極めて容易になし得る単なる公知技術の寄せ集めにすぎないことは明らかである。

(5)  本件考案は、実願昭五四-二〇四一九号の明細書及び図面(実開昭五五-一一九八七四号で出願公開されたもの、以下「乙三二の明細書」という。)によっても出願前公知であった。

すなわち、乙三二の明細書の二頁八行ないし一六行目には、「第1図に示すように2個の回動部材(1) 、(2) を2個のリンク(3) 、(4) で連結してなるものは、カップ型をなす一方の回動部材(2) に枢支ピン(5) を跨設して、該枢支ピン(5) に一方のリンク(3) を枢支し、さらに該リンク(3) には、上記枢支点の近傍に切欠箇所(6) を形成することにより、他方のリンク(4) が該切欠箇所(6) に進入して上記枢支ピンに押当停止するまで両回動部材(1) 、(2) を回動自在としたものである。」と、拡幅リンク(リンク(3) )の軸承部に設けられた切欠窓孔(切欠箇所)に狭幅リンク(リンク(4) )が受容(進入)する構成の本件考案と同一の蝶番が記載されている。

さらに、乙三二の明細書二頁一七行ないし三頁六行において、「従って、2個の回動部材を2個のリンクで枢着してなる公知の蝶番にあっては、開成時において、一方のリンクの外側面が他方のリンクの一枢支端部に突き当るので、両回動部材の回動角度はこれにより規制され、図示の一定角度α以上回動させることができなかったものが、上述切欠箇所(6) を設けた構成によって、当該切欠箇所(6) に、他方のリンク(4) が進入する分だけ広く、すなわち図示の広角度β回動させることができるものである」なる記載があり、本件考案における「拡幅リンクの左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部には、拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」とした、拡角度に開扉可能とする蝶番と同一の構成を有し、同一の作用効果を有するものである。

なお、乙三二の明細書の第1図だけを見れば、「切欠箇所(6) 」に本件考案における「連設部(6) 」が存在するかどうかは必ずしも明瞭ではない。しかしながら、乙三二の明細書には軸承部を左右に分断するような図も示されていないばかりでなく、「切欠箇所(6) 」は、「切欠箇所(6) を形成することにより、他方のリンク(4) が該切欠箇所に進入して上記枢支ピンに押当停止するまで両回動部材(1) 、(2) を回動自在と」するためのものであるから、他方のリンク4が進入するに必要な範囲で切欠が形成されているものであり、したがってその形状は連設部を残した矩形状のものであると理解するのが自然である。

のみならず、乙三二の明細書では「切欠箇所(6) 」を「枢支点(軸承部)の近傍」に形成すると記載されているのであって、当時の技術水準から判断して、「切欠箇所(6) 」が、乙六の公報の第7図、乙七の公報の第4図に開示された「矩形状の切欠」の構造や、乙九の明細書の第17図、第35図、乙二四の4の明細書の第7図ないし乙二四の5の明細書の第8図、第9図に開示されたカム(あるいはエッジないし舌)の下の「窓」の構造や本件考案の「切欠窓孔」のように「連設部7」を残した「矩形状」のものでよいことは当業者にとって自明なことである。

(6)  以上詳述したように、本件考案は出願の際既に公知であり、無効となるべきものである。そこで、その技術的範囲も不当にその範囲が拡がらないように限定的に解釈されなければならない。

3  原告の反論

(一) 構成要件C及びDの限定解釈について

(1)  被告は、拡角度に開扉する点は本件考案の目的、作用効果ではないことをすべての主張にあたっての前提としている。

しかし、本件考案が扉の開扉角度を広くするための手段を開示提供していることは、実用新案登録請求の範囲に、「拡角度に開扉可能になるように」切欠窓孔を設けることが明記されていることからすでに明らかである。

拡角度に開扉可能にするという目的自体が出願前から知られていたことは本件明細書にも記載されているとおりであるが、だからといってこれが本件考案の目的、作用効果ではないなどとすることはできない。

(2)  「切欠窓孔」について

被告は、本件考案の構成要件を無視し、もっぱら明細書の実施例と被告ヒンジの比較を行っているにすぎない。

いうまでもなく考案の技術的範囲は、実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めるべきである。したがって被告ヒンジが本件考案の技術的範囲に属するか否かは、実用新案登録請求の範囲記載の構成要件を具備しているか否かを論ずれば足りる。

本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて、上記両側カール部の先端側を連設してなる連設部」との構成は、記載自体から疑義なく理解しうるものであり、また被告ヒンジが右にいう「切欠窓孔」、「連設部」を具備することは明らかである。

(3)  軸ピンについて

被告は、被告ヒンジを本件考案の実施例と比較している。本件考案の実用新案登録請求の範囲は「上記ソケットに軸ピンにて枢着可能なるよう……」とされているだけであって、軸ピンが一本のピンでなければならないとか、U字ピンは含まれないなどとは明細書に何らの記載もないのである。

(4)  ソケットに枢着される拡幅リンクについて

被告は、本件考案が自動組み立てによるものであることを要件とするという。しかし、本件明細書に自動組み立てに関する記述があるのは、本件考案のヒンジの構成を採るならば自動組み立てによる場合でも、従来の欠点が解消されることを説明しているにすぎないのであって、かかる記載を根拠に、本件考案が自動組み立てのヒンジに限定されるなどということはできない。

(二) 本件考案の公知技術について

被告は、本件考案が出願前公知であった旨主張するので、本件考案と被告提出の公知技術とを、目的、構成、及び効果の観点から対比してみる。

(1)  乙二七の考案は、本件考案に先立つ原告自身の出願にかかる考案である。乙二七の考案は、ヒンジの開閉動作角度を大きくすることを目的とするものであり、本件考案とは目的を異にするものである。また、本件考案は、乙二七の考案を前提としつつ同考案に存在する欠点を克服するために考案されたものである。したがって、乙二七の考案は、本件考案の進歩性を示すものでこそあれ、無効原因の根拠とはなり得ない。

乙二七の考案は、蝶番としての回動角度を大きくすることを目的として、連結部材(本件考案の拡幅リンクに相当)の回動部材(同じくカップに相当)側端部に他の連結部材(同じく狭幅リンクに相当)を嵌入するための溝を切欠くという考案であるのに対し、本件考案は、右連結部材先端に切欠溝を形成したことによって発生した種々の問題点(軸承部の強度低下、自動組立時における不良品の発生)を解決することを課題として、軸承部構造に関する新規な考案を提供するというものである(本件公報一欄一七行ないし三欄二一行目参照)。このように、本件考案は、同じく原告が出願した乙二七の考案の改良考案であり、同考案と本件考案とが別個の考案であること明らかである。また、本件公報には、参考文献として乙二七の考案の公報が提示されており、特許庁もまた、乙二七の改良考案として本件考案の新規性、進歩性を認めたのである。したがって、乙二七の明細書の実用新案登録請求の範囲中に記載された「切欠箇所」が、本件考案の「切欠窓孔」を含む概念であり、乙二七の考案と本件考案とが同一考案であるとの被告の主張は、両考案の技術的意義を無視した被告独自の見解といわざるを得ない。

(2)  乙四の考案は、乙二七の考案と同様、ヒンジを広角度に開くことを目的とするものであり、本件考案とは、目的、構成及び効果を異にするものである。

また、乙四の公開公報においては、本件考案でいう「連設部」を示唆する記載がないばかりか、「連設部」を積極的に排除する記載すら存在する。すなわち、その実用新案登録請求の範囲には、「切欠溝部5の両側の分岐側片3、3」並びに「それぞれ軸ピン20、20を介して各別に回動自由に軸着すると共に、上記切欠溝部2内に、・・・第二連繋部材10の調整彎曲部8を介入自在にしてなる」との記載がある。したがって、乙四の考案においては、切欠溝部2の形状をコ字形にし、かつ、可動部材17と第一連繋部材5とを一本の軸ピン20で繋ぐことをせず、同軸ピンを二本に分断することによって、右切欠溝部内を第二連繋部材10の調整彎曲部8が自由に通過することができるようにしたのである(乙四の公開公報第5、6図参照)。

以上のように、乙四の考案には、本件考案にいう「連設部」など存在せず、また、本件考案とは目的、構成及び効果のいずれも異なること明白である。

(3) <1> 乙六、七の発明は、いずれも本件考案の前提である、ソケットとマウンテイングプレートを二つのリンクにより連結するヒンジに関する技術ではなく、目的、構成及び効果とも本件考案と明らかに異なるものである。

<2> 乙九の発明においては、外リンクのソケットとの結合部分にはそもそも切欠すら存在しない。したがって、本件考案とはその目的、構成及び効果とも異なること明白である。

乙九の発明は、公知のスライド蝶番において、扉を閉じた状態に保持することを目的とする発明である(乙二四の3の訳文一頁下から五ないし二行目参照)から、公知のスライド蝶番の特殊な問題点(軸承部の強度低下、自動組立時における不良品の発生)の解決を目的とする本件考案との同一性は認める余地がない。

また、乙九の発明における窓24は、ローラー31が同窓内へ入ることによって扉の閉鎖位置を確保するために設けられたものであり(同訳文六頁二三ないし二五行目参照)、本件考案の「切欠窓孔」のように他のリンクを受容することによって回動角度を大きくするとの技術的意義を有するものではなく、さらに、乙九の発明に右窓24が存在する部材は、本件考案と異なり内側のリンク21であり、また、同窓の存在する位置も本件考案のようなカップ側ではなくその反対側であるなど、両者はその構成自体が相違している。

加えて、乙九の明細書の図17、18から明らかなごとく、右発明において、右窓を形成した残りの部分はピボット12の周囲大部分を巻成しており、右残存部分をもって本件考案の「連設部」と同一視することは到底できない。特に、同明細書の図35において、端部23の先端部分は、カム25の湾曲部が当たらないようにコの字形に切欠かれており(断面にハッチングがなく、白抜きになっていることからこの部分が切欠かれていることがわかる)、本件考案の「連設部」が示されているとは到底いえない。

以上のように、乙九の発明と本件考案とは、目的、構成及び効果とも全く異なるうえ、同明細書には、本件考案の「連設部」を示唆する記載など存在せず、むしろ、「連設部」を積極的に排除する記載(図35等)すら存在しているのである。

<3> 乙二四の4の発明は、乙九の発明における弾性部品の改良形状、並びに蝶番を取りつけた後でも、バネの強さを調整可能とする方法を提供するものである(乙二四の4の訳文一頁一六行ないし二四行目参照)。また、乙二四の4の発明の明細書には、乙九の明細書に記載されていた窓24の記載すら存在しない。したがって、乙二四の4の発明は、乙九の発明と同様、本件考案とは、目的、構成及び効果とも異なり、本件考案の「連設部」を示唆する記載すら存在しない。

<4> 乙二四の5の発明の目的は、乙二四の5の訳文3頁二ないし一一行目記載のとおりであり、本件考案とはまず目的が異なっている。また、同発明の構成は、乙二四の5の明細書の図8ないし図11から明らかなごとく、前記乙九の発明とほぼ同一であるから本件考案とは異なること明白である。さらに、二四の5の発明にも、本件考案の「連設部」を示唆する記載は存在せず、むしろ、乙二四の5の明細書においては、乙九の明細書と異なり、実施例としてコの字形に切欠いている部材が示されている(同図5、6参照)。したがって、乙二四の5の明細書に、本件考案の「切欠窓孔」及び「連設部」は、開示されていない。

(4)  乙三〇の発明は、「足付きバネの影響で扉が半開きになるのを避けるという家具用蝶番の製作の問題点」の解決を目的としたものであり(乙三〇の訳文二頁下から六行ないし四行)、本件考案のように、公知のスライド蝶番の特殊な問題点(軸承部の強度低下、自動組立時における不良品の発生)を解決することを課題として、軸承部構造に関する新規な考案を提供するというものではない(本件公報一欄一七行ないし三欄二一行参照)。したがって、乙三〇の発明と本件考案とは目的課題が全く異なっている。

また、乙三〇の発明は、蝶番バー4(本件考案の拡幅リンクに相当)のハウジング2(カップに相当)側の軸承部の形状は、乙三〇の明細書の図1ないし図3の各断面から、別紙参考図(三)のEのような構造になっていることが認められる。したがって、右蝶番バー4の軸承部は「切欠窓孔」でなく単なる切欠溝になっており、本件考案のような「連設部」に相当する部分は存在しないのである(蝶番バーの軸承部にはハッチングが存在しない)。また、乙三〇の明細書の図1ないし図3によると、足付きバネの足の端部12は、接合台16により、蝶番ピン9に当接した位置から蝶番バー4のスリット状の切欠内を通って外側へ押し上げられており、この端部12の動きからも、右蝶番バー4の軸承部には本件考案にいう「連設部」が存在しないことが理解できる。

さらに、乙三〇の発明においては、本件考案と異なり、閉鎖位置において、蝶番バー3(狭幅リンクに相当)が蝶番バー4の切欠溝内に受容されるという構成にはなっていない。

このように、乙三〇の発明と本件考案は、その基本的構成そのものが全く異なっている。

被告は、「乙三〇の明細書では、右ハウジングに蝶番ピン・・・にて枢着可能なるよう蝶番バー3の左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部があり、この軸承部に開口部15(本件考案における切欠窓孔)が設けられている。また、乙三〇の明細書の図1に示すハッチングから明らかなように、蝶番ピン6を取り巻くカール部の先端側に本件考案におけると同様の連設部8が形成されている」と主張する。しかし、右主張は、まず、開口部15の存在する部材が本件考案においては外リンクであるのに、乙三〇の発明においては、内リンク(蝶番バー3)である点でそもそも対比に由なきものである。また、乙三〇の発明の開口部15の技術的意義は、ハウジング2(本件考案のカップに相当)を閉鎖位置に向けて閉じる過程で、接合台が蝶番バー3に接触することを回避するために、接合台の「逃げ」として右蝶番バー3上に開口した単なる切欠又はスリット状の孔にすぎず(参考図(三)のC、D参照)、本件考案のように、他のリンクを受容することによって従来のヒンジに比べてより広角度に回動させると共に、新規な軸承部の構造を提供することを目的として開口した「切欠窓孔」と同視することは到底できない。

被告は、乙三〇の明細書記載の断面図(図1)から、開口部15が本件考案の「切欠窓孔」に相当するかに主張するが、乙三〇の発明における開口部15及び軸承部の形状は、右断面図並びに開口部15内に入り込む接合台16ないし18並びに21の形状を参酌して判断すべきであり、別紙参考図(三)C又はDのような形状になっているとみるほかないのである(なお、参考図(三)A及びBは蝶番が九〇度開いた状態を示すものであるが、各図では蝶番バー3、4並びに接合台の関係を明確に示すため、足つきバネ11を省略している)。つまり、接合台の形状が18のようにハウジング2の側面から突出したピンである場合は、同ピンが入り込む開口部15の形状は、窓孔となることはなく、接合台18側が単に切り欠かれた構造になっているのである(窓孔では側面から突出したピンが入り込むことができない。参考図(三)A及びC参照)。また、接合台16、17及び21の場合は、同台がハウジングの側面側に位置し、その形状が板状の突起であることから、開口部15は、蝶番バー3のハウジング側に偏芯したところに位置し、その形状は、参考図(三)Cに示すような切欠か、あるいは参考図(三)Dに示すような細長いスリット状の孔となっているのである(参考図(三)のB参照)。

以上のように、乙三〇の発明の開口部15は、閉鎖位置において接合台と蝶番バー3が接触することを回避するために設けられた単なる「逃げ」にすぎず、その形状も、接合台の形状に対応して、参考図(三)C又は図Dのように蝶番バー3の軸承部の一部を切欠くなどしたものであり、既述のごとく、本件考案の「切欠窓孔」と同一のものとは到底認めることはできない。また、同発明にいう端部8とは、右のように開口部15を切り欠いた結果、軸承部に残った残存部分にすぎないものであり、本件考案の「連設部」に相当するような「連接部分」すら存在しないものである(参考図(三)C、D参照)。したがって、乙三〇の発明の開口部15が本件考案の「切欠窓孔」に相当し、蝶番ピン6を取り巻くカール部の先端側に本件考案におけると同様の「連設部」が形成されているとの被告主張は、同発明の技術的意義及び具体的構成を無視した被告独自の見解であるといわざるを得ない。

(5)  被告は、原告出願にかかる乙三二の考案自体ではなく、同考案の明細書中に従来例として引用されているヒンジと本件考案とを対比して主張するが、右に引用の従来例と乙二七の考案とは実質的に同一の考案である(ヒンジが開いた時に内リンクが外リンクの切欠内に受容されるか、閉じた時に受容されるかという点のみ異なる)から、当然のことながら乙三二の明細書に基づく被告の主張内容は、乙二七の考案に基づくそれと同一であり、理由がない。

四  争点2に関する当事者の主張

1  原告

本件考案につき原告が通常受けるべき実施料相当額は、売上額の三%と考えるべきである。

(一) 裁判所に顕著と思われる「国有特許権実施契約書」による国有特許・実用新案権に対する実施料率は、販売価格を基礎として二ないし四%とされている。

右の基準率は「国有」であることの特殊性からみて、民間のそれに比して低率であると考えられることを考慮するならば、本件考案につき原告が通常受けるべき金銭の額を売上額の三%とすることには、充分な合理性がある。

(二) 社団法人発明協会研究所発行の「実施料率」は、昭和六三年度ないし平成三年度の四年間における技術導入契約の実施料率データを技術分野別に調査のうえ開示したものであり、被告ヒンジは、「鉄鋼製品」または「金属製品」の技術分野に属するものであるところ、同書の調査結果からしても本件考案の実施料相当額率を売上額の三%とすることの合理性は裏付けられている。

(三) 本件考案は、原告自身の実施によって、この種ヒンジの分野における充分な評価を得ているのであって、このことは被告による大量の侵害行為によっても裏付けられている。

(四) 国有特許実施契約書にいう「利用率」とは、製品の一部、すなわち、部品等に関する考案に対する実施料率の決定に際し、製品全体に対する当該部品等の利用度を勘案調整しようとするものにすぎない。本件考案は製品ヒンジそのものに関するから、利用率を特段に考慮する必要はないのである。

2  被告

実施料を求めるための基準率は、「実施価値が中程度のもの」については三%であるところ、本件考案は、「実施価値が中程度以下のもの」であるから、三%とするのは相当ではない。

(一) 本件考案は、乙二七の考案のヒンジを基本構造とするもので、これに「連設部」を設けたにすぎない。リンク機構を有するスライドヒンジの特徴は、扉の拡角度閉扉にあり、既に権利が消滅している「リンク機構」及び「切欠溝」の作用効果に比べると「連設部」の果たす作用効果の価値は低い。

(二) 原告が本件考案の効果として主張している「連設部により軸承部の強度が増大する」「連設部7が軸ピン4を挿入する際のガイド役となり不良品の発生率を抑止する」、「右軸ピンに給油した潤滑油が連設部に保持されることにより同軸ピンへの潤滑油の補給が十分にできるようになり、長期にわたる円滑なヒンジの運動を可能にしたものである」との作用効果は、公知技術である乙六、七、九の各発明、乙二四の4、同二四の5の発明からも生じる作用効果であって、本件考案が特徴とする独自の効果ではない。

(三) 被告製品においては、本件考案の作用効果を本件考案の構成要素以外の構造により達成しており、本件考案の構成による作用効果の割合(利用度)は極めて低い。

(四) 被告製品の七割を占めるバネ有りタイプのものは、被告が有する跳開防止のための特許(特公平四-一七二七五号)を基本構造としている。

(五) 本件考案は、スライドヒンジにおける一部品である外リンクに関するものにすぎず(切欠溝も連設部も外リンクに存する)、しかも、その外リンクの一部分の軸承部の構造にとどまるものであるから、その利用率は、〇・五%以下である。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  本件考案の目的、構成及び効果

本件考案は、扉取付枠に固定するマウンテイングプレートと、扉の凹所に嵌着した後、ビス止め等にて扉cを固定するソケットを拡幅リンクと狭幅リンクにて連結してなるヒンジのリンクの軸承部の構造に関する考案である。本件考案は、拡幅リンクと狭幅リンクを備えた通常のヒンジに比べて、拡角度に開扉できるようにするため、拡幅リンクの中央部と軸承部の間に、狭幅リンクの一部を受容可能となるように切欠溝を設け、閉扉時において、狭幅リンクの一部が右切欠溝に受容される構造のヒンジに関するものであり、従来、この構造のヒンジは、その軸承部が、切欠溝によって左右に分断されてしまい、軸受部の強度が低下し、また、ヒンジを自動機械により組立てる場合に、軸ピンをソケットの軸孔と軸承部とに機械を用いて圧入する際に、切欠溝の存在により、軸ピンが圧入時に偏芯しやすく、その先端が他方の軸受部に嵌入せず噛合うなどして当該軸受部を損傷し、その結果、不良品の発生率が大となり、また、手作業の場合にも軸ピンの嵌合に手間取るという問題点があったところ、拡幅リンクの軸承部に単なる切欠を形成するのではなく、拡幅リンクの軸承部に切欠の代わりに切欠窓孔を設けて連設部を適切に形成し、前記第二、一4認定の構成を採用することにより、右連設部が軸承部を補強すると共に、軸ピン圧入時のガイド役も果たさせ、これにより自動組立の作業性を向上させ、かつ、不良品の発生を抑止すると共に、潤滑油の貯溜量を増大して、長期にわたる円滑な作動を保証しようとするものである。(甲二)

2  被告ヒンジの構造について

(一) 被告ヒンジ三を除く被告ヒンジを、別紙物件目録一、二の各一ないし四及び同四の一、二記載のとおり特定することについては、前記のとおり当事者間に争いがない。

(二) 被告ヒンジ三は、構造の説明については、別紙物件目録三の一ないし四の各1ないし3項のとおり特定すること、並びに、図面については、右各物件目録添付の第1図ないし第6図中、第1図、第4ないし第6図のとおりとすることは当事者間に争いがなく、第2図、第3図も、その正確性について争いがあるわけではない。

右各物件目録の構造の説明の4項については、原告は、「4 カップdとアームbとが最大限に折曲した状態においては、第2、4図に示されるように、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっている。ただし、カップdとアームbとが直角に折曲した状態においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された右切欠6内に入り込むようにはなっていない。」と特定すべきであると主張し、被告は、「4 扉を付けた閉扉状態においては、第2、第4図に示されるように、内リンク5の一部は、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっていない。但し扉を付けずにカップdとアームbとが最大限に折曲した状態においては、第7図に示されるように、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっている。」と特定すべきであると主張する。また、被告は、物件目録添付図面としては、被告物件目録三の一ないし四添付の各第2図、第3図を添付すべきであると主張している。

右によれば、構造の説明の4項については、原告被告間では、「カップdとアームbとが最大限に折曲した状態においては、内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6内に入り込むようになっていること、及び、カップdとアームbとがほぼ直角に折曲した状態においては、内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6内に入り込むようにはなっていないこと」は、当事者間に争いがなく、被告は、カップdとアームbとが「直角に折曲した状態」を「閉扉状態において」と表現しているだけであり、また、図面についても、原告の同物件目録添付の各第2図は、被告物件目録三の一ないし四添付の各第7図と実質的に同一であり、原告の同物件目録添付の各第3図は、同被告物件目録添付の各第3図と比べ、扉と扉取付枠を図示しているかどうかの点の差異が存するだけである。また、同被告物件目録添付の各第2図は、原告の物件目録の図面には記載されていないが、カップdとアームbとがほぼ直角に折曲した状態においては、内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6内に入り込むようにはなっていない状態を示すものであり、この点は、前記のとおり、原告も争っているわけではなく、原告の同物件目録の図面と矛盾するものではない。

以上によれば、原告と被告間では、被告ヒンジ三について、その客観的構造について争いがあるわけではなく、単に「閉扉状態」という表現を使用するか「ほぼ直角に折曲したとき」との表現を使用するか、その表現方法の一部に争いがあるだけであり、本件考案の構成要件Cの「閉扉時にあって」の要件の解釈が争点になっていることも考慮すれば、被告ヒンジ三については、構造の説明の4項については、原告主張のとおり、「閉扉時」との用語を用いずに、被告ヒンジ三の構造を前記のとおり客観的に特定したうえで、対比の判断をするのが相当である。また、原告の物件目録三の各一ないし四添付の各第2図、第3図についても、その正確性について争いがあるわけではなく、さらに、被告物件目録添付の第2図については、原告の物件目録には対応する図面が存在しないことになるが、同図は、カップdとアームbとがほぼ直角に折曲した状態においては、内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6内に入り込むようにはなっていない状態を示すものであり、その事実は、原告の物件目録の構造の説明の4項において明記されているのであるから、物件目録に必ず添付しなければならない図面であるとも認められない。したがって、被告が過去において製造販売した被告ヒンジ三は、原告の物件目録三の一ないし四のとおり特定して対比の判断をするのが相当であり、以下、被告ヒンジ三については、原告の別紙物件目録を前提として対比の判断をする。

3  本件考案と被告ヒンジとの対比

(一) 構成要件A「マウンテイングプレートとソケットをリンク機構にて連結してなるヒンジにおいて」について

別紙物件目録の記載によれば、被告ヒンジは、いずれもマウンテイングプレートに当たるアームbとソケットに当たるカップdとを外リンク1と内リンク5のリンク機構により連結したものであるから、本件考案の構成要件Aの構成を具備している。

(二) 構成要件B「上記リンク機構は拡幅リンクと狭幅リンクとからなり」について

別紙物件目録の記載によれば、被告ヒンジのリンク機構は、いずれも外リンク1と内リンク5からなり、内リンク5は、軸着部分だけが狭幅で、それ以外は、外リンク1の幅とほぼ同一であると認められる。

本件考案の狭幅リンクは、閉扉時にソケットdとの枢着部において、拡幅リンクの切欠窓孔にその一部が受容されるようにその幅を拡幅リンクより狭幅としたものであり、それ故、本件明細書の考案の詳細な説明の欄においても、「狭幅リンクf(このリンクは少なくともソケットと枢着する側が狭幅であればよい)」(本件公報一欄二五行ないし二欄二行)と記載されているものである。したがって、本件考案の「狭幅リンク」とは、ソケットと枢着する側が狭幅であること、すなわち、拡幅リンクの先端に設けられた切欠窓孔に受容されるように、その部分の幅を拡幅リンクより狭くしたものであれば足り、拡幅リンクの切欠窓孔に受容されない部分においては、拡幅リンクと同一の幅であっても、何ら差し支えないものであると認められる。そして、別紙物件目録の記載によれば、被告ヒンジの内リンク5は、いずれも外リンク1の切欠6内に入り込むことが可能なようにその部分が狭幅となっていることが認められるから、本件考案の構成要件Bの構成を具備しているものと認められる。

被告は、本件考案の「狭幅リンク」の「狭幅」とは「幅全体が同じ程度に狭いもの」と解すべきであると主張するが、そのように解すべき根拠は、本件明細書上存在せず、被告の右主張は採用し得ない。。

(三) 構成要件C「上記ソケットに軸ピンにて枢着可能なるよう上記拡幅リンクの左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部には、拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」について

(1)  被告ヒンジ三を除く被告ヒンジについて

別紙物件目録一、二の各一ないし四、同四の一、二の記載によれば、被告ヒンジ三を除く被告ヒンジは、いずれも「外リンク1のカップdとの結合側部分は、軸ピン4(又はU字ピン4)が軸孔3内に挿入可能なように、カール状に巻き上げられて、軸ピン4(又はU字ピン4)の軸承部2を形成していると共に、その一部分(幅方向中央部分)には切欠6が穿設され、軸承部2の両端のカール部2′・2′は第一軸カバー部9によって連結されている。外リンク1の切欠幅は、内リンク5の幅の狭い部分の寸法より若干広めで、かつカールの円周のほぼ三分の一となっている。閉扉時においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっている。」構造であると認められる。

そして、被告ヒンジ三を除く被告ヒンジの右の構造のうち、「外リンク1のカップdとの結合側部分は、軸ピン4(又はU字ピン4)が軸孔3内に挿入可能なように、カール状に巻き上げられて、軸ピン4(又はU字ピン4)の軸承部2を形成している」との部分は、構成要件Cの「上記ソケットに軸ピンにて枢着可能なるよう上記拡幅リンクの左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部」との要件を充足し、また、「外リンク1の一部分(幅方向中央部分)には切欠6が穿設され、軸承部2の両端のカール部2′・2′は第一軸カバー部9によって連結されている。外リンク1の切欠幅は、内リンク5の幅の狭い部分の寸法より若干広めで、かつカールの円周のほぼ三分の一となっている。閉扉時においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっている。」との部分は、切欠6と両端のカール部を連結する第一軸カバー部9が、構成要件Cの「切欠窓孔」を構成し、閉扉時に内リンク5の一部が外リンク1の切欠6に入り込むようになっているから、同構成要件Cの「拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」との要件を充足するものであると認められる(なお、後記(2) との関連でいえば、被告ヒンジ三を除く被告ヒンジの「閉扉時においては、内リンク5の一部が・・・切欠6内に入り込むようになっている」との構造は、別紙物件目録の記載によれば、「ヒンジをほぼ最大限に折曲したときにおいて、内リンク5の一部が・・・切欠6内に入り込むようになっている」との構造であるともいうことができるものであることを付言する。)。

したがって、被告ヒンジ三を除く被告ヒンジは、本件考案の構成要件Cの構成を具備している。

(2)  被告ヒンジ三について

別紙物件目録三の一ないし四の記載によれば、被告ヒンジ三は、いずれも「外リンク1のカップdとの結合側部分は、軸ピン4(又はU字ピン4)が軸孔3内に挿入可能なように、カール状に巻き上げられて、軸ピン4(又はU字ピン4)の軸承部2を形成していると共に、その一部分(幅方向中央部分)には切欠6が穿設され、軸承部2の両端のカール部2′・2′は第一軸カバー部9によって連結されている。外リンク1の切欠幅は、内リンク5の幅の狭い部分の寸法より若干広めで、かつカールの円周のほぼ三分の一となっている。カップdとアームbとが最大限に折曲した状態(又はほぼ最大限に折曲した状態)においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっている。ただし、カップdとアームbとが直角に折曲した状態においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された右切欠6内に入り込むようにはなっていない。」構造であると認められる。

<1> 被告ヒンジ三の右の「外リンク1のカップdとの結合側部分は、軸ピン4(又はU字ピン4)が軸孔3内に挿入可能なように、カール状に巻き上げられて、軸ピン4(又はU字ピン4)の軸承部2を形成している」との構造は、構成要件Cの「上記ソケットに軸ピンにて枢着可能なるよう上記拡幅リンクの左右両側端部に夫々巻成されたカール部による軸承部」との要件を充足し、また、「外リンク1の一部分(幅方向中央部分)には切欠6が穿設され、軸承部2の両端のカール部2′・2′は第一軸カバー部9によって連結されている」との構造は、構成要件Cの「切欠窓孔」の要件を充足するものと認められる。

<2> 被告ヒンジ三の右の「カップdとアームbとが最大限に折曲した状態(又はほぼ最大限に折曲した状態)においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっている。ただし、カップdとアームbとが直角に折曲した状態においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された右切欠6内に入り込むようにはなっていない。」との構造が、構成要件Cの「拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」に当たるものであるかどうかを次に考察する。

この点を検討するにあたっては、本件考案の構成要件Cの「・・・上記拡幅リンクの・・・軸承部には、拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」の「閉扉時にあって」の意味を明らかにする必要がある。

まず、本件考案は、考案の名称は「ヒンジ」であり、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載や、実用新案登録請求の範囲の記載からも、本件考案がヒンジに関する考案であって、ヒンジを取り付ける扉の形状、構造等に関する考案ではないことは明らかである。そして、「考案」とは、「物品の形状、構造又は組合せに係る」ものをいう(実用新案法一条参照)のであるから、本件考案の実用新案登録請求の範囲において、「閉扉時にあって」とあるのは、文字どおりに理解すれば「(ヒンジが扉に取り付けられた状態において)扉が閉まったときにあって」との意味であるが、この要件は、本件考案の対象となる物品であるヒンジの形状、構造等を規定している要件であって、扉と扉枠に取り付けられて使用される前提で製作されるヒンジのある作動段階における構造を「閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く・・・切欠窓孔を設けて」と規定しているものであると解すべきであり、後記のとおり、本件考案において「切欠窓孔」が設けられたことの目的及び効果を勘案して、合理的にその意味を解釈すべきである。

そこで本件考案の「閉扉時にあって」とは、どの作動段階におけるヒンジの構造を規定しているものかについて、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載を参酌するに、本件明細書では、本件考案が前提としているヒンジについて「更に拡角度に開扉できるようにする為・・・閉扉時にあって、上記切欠溝jに狭幅リンクfの一部が第1図に示した如く軸ピンg′に当接するまで受容されるように形成してある」(本件公報二欄九行ないし一六行)と記載し、第1図においては、マウンテイングプレートとソケットがほぼ最大限に(略九〇度)に折曲されている状態を図示しているのである(甲二)。

右の本件明細書の記載は、本件考案の対象となっているヒンジは、「更に拡角度に開扉できるようにする為・・・閉扉時にあって、上記切欠溝jに狭幅リンクfの一部が・・・軸ピンg′に当接するまで受容されるように形成してある」ものであるから、右の「閉扉時にあって」とは、拡角度に開扉できるようにするため、拡幅リンクの切欠溝jに狭幅リンクfの一部が軸ピンg′に当接するまで最大限に受容されるヒンジの作動状態、すなわち、拡角度に開扉できるようにするため、マウンテイングプレートとソケットがほぼ最大限に折曲されたヒンジの作動状態になることを意味しているものである。

そして、「閉扉時」についての右の解釈は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が「拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクを受容可能なる如く・・・切欠窓孔を設けて」と規定し、「拡角度に開扉可能」とするために、閉扉時に狭幅リンクを受容可能とする切欠窓孔を設けるとの構成としたこととも符合するものである。すなわち、本件考案において「切欠窓孔」を設けた目的及び効果は、拡角度に開扉可能とするためのものであることは、本件明細書上明記されているものであるから、その目的及び効果を達成するためには、「閉扉時」を「ヒンジをほぼ最大限に折曲した状態」と解すべきである。

なお、仮に、「閉扉時にあって」との要件を文字どおり「扉が閉まったとき」と解すると、略九〇度で閉扉となる扉以外にも、ドイツのメプラ社のカタログにも示されているように、家具をより装飾的にするために、九〇度未満の鋭角で閉扉状態となる扉を備えた家具に使用されるヒンジが実際に存在するものであるところ(甲三の1ないし3)、ユーザーが被告ヒンジ三と実質的に同じ構造のヒンジを、略九〇度で閉扉する扉に取り付けたときと、鋭角で閉扉する扉に取り付けたときとで、狭幅リンクの一部が切欠窓孔に受容されたり、受容されなかったりすることが生じてくるのである。したがって、このような解釈は、ヒンジが製造、販売され、これを購入したユーザーが同じ構造のヒンジをどのような扉に取り付けるかにより、本件実用新案権を侵害するか否かの結論を異にする結果になるものであり、本件考案の技術的範囲を一義的に定め得ないことに帰着するものであって、採用し得ないものである。

また、被告は、前記第二、三2(二)において、「構成要件Cの「閉扉時にあって」とは、本件明細書の考案の詳細な説明の欄に「第1図により説示した閉扉時にあって」(本件公報三欄三三行)との記載があり、本件公報の第1図において扉が直角に閉ざされている閉扉時の状況が示されていること、本件考案のヒンジは、ヒンジを扉に取り付けた状態で考えることを前提としていること、閉扉時後も扉を取付枠に押し付ける余力をバネに与えておかないと、不完全な閉扉状態となるため、ヒンジを最大限折曲したときをもって閉扉時ということはできないこと等から、本件考案でいう閉扉時とは、「扉が取付枠に対し直角に閉ざされたとき」である」等の主張をしている。

しかし、本件公報の図面の簡単な説明の欄には、「第1図・・・はヒンジの一例を示した・・閉扉状態の縦断面図」(本件公報四欄四二、四三行)と記載されているものであり、右の図面の簡単な説明によれば、第1図において、マウンテイングプレートとソケットが略九〇度で最大限に折曲された状態が図示されているのは、略九〇度で最大限に折曲されるヒンジの一例が示されているにすぎないものである。したがって、この第1図の閉扉状態がマウンテイングプレートとソケットが略九〇度に折曲した状態を示しているからといって、本件考案の「閉扉時にあって」とは、「扉が取付枠に対し直角に閉ざされたとき」であると解することはできない。

また、前記のとおり、略九〇度で閉扉する扉以外にも、鋭角で閉扉する扉が実際に存在するのであるから、本件考案の「閉扉時」を「扉が取付枠に対し直角に閉ざされたとき」に限定するのは、このような鋭角で閉扉する扉へ取り付けるヒンジを本件考案の対象外とする結果となるのであるが、本件明細書には、本件考案の対象を略九〇度で最大限に折曲する構造のヒンジに限定する旨の記載も、略九〇度で閉扉する扉に使用するヒンジに限定する旨の記載も存しないのであるから、被告の前記解釈は到底採用し得ない。

以上によれば、本件考案の構成要件Cの「拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクを受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」との構成は、「拡角度に開扉可能となるように、閉扉時すなわちヒンジ(マウンテイングプレートとソケット)がほぼ最大限に折曲したときに、前記狭幅リンクを受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」との構成であると認めるのが相当である。

次に、証拠(検甲五)及び別紙物件目録三の一ないし四の記載によれば、被告ヒンジ三は、カップdとアームbが鋭角に折れ曲がった状態で最大限に折曲し、このときに内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6内に入り込むようになっており、それにより拡角度に開扉することが可能な構造となっているものであり、扉が取付枠内部に入るように閉じる家具(インセットタイプ)で、鋭角で閉扉状態となるものに装着することによって、はじめて鋭角に折曲可能との機能、及び、拡角度に開扉可能となるとの効用を発揮できる構造のヒンジであることが認められる。

なお、略九〇度で折曲した状態で閉扉状態となる扉以外にも、前記のとおり、家具をより装飾的にするために、九〇度未満の鋭角で閉扉状態となる扉を備えた家具とそのために使用されるヒンジが実際に存在するものであり、そして、証拠(甲三の1ないし3)に図示される家具の形状から明らかなように、このような家具においては、その扉を開けて中のものを出し入れするときの使い安さからいって、閉扉状態から拡角度に開扉されるべきことが、略九〇度で閉扉状態となる家具よりも、より強く要請されるものであることも認められる。

以上によれば、被告ヒンジ三は、ヒンジがほぼ最大限に折曲したときには、内リンク5の一部が外リンク1に穿設された切欠6内に入り込む構造のものであることは、前記のとおりであるから、被告ヒンジ三は、本件考案の構成要件Cの「拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクを受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設けて」との構成を具備するものと認められる。

なお、被告ヒンジ三は、前記のとおり、鋭角で閉扉状態となる家具に使用したときにその効用を発揮する構造を備えたヒンジであるが、仮に、ユーザーが被告ヒンジ三を略九〇度の角度で閉扉となる扉に使用した場合には、略九〇度で閉扉したときに、内リンク5の一部が外リンク1の切欠6内に入り込むものではない。現に、証拠(甲四の2)によれば、被告のカタログにおいて、被告ヒンジ三を略九〇度で閉扉する扉と扉取り付け枠に取り付ける使用態様が一例として図示されているものである。しかし、本件考案は、ヒンジの形状、構造に関する考案であり、本件考案の「閉扉時にあって」とは、前記のとおりヒンジのある作動段階における構成を規定する要件であり、したがって、被告が前記のとおり本件考案の構成をすべて具備した被告ヒンジを製造販売したとすれば、被告のその行為が本件実用新案権を侵害する行為に当たることはいうまでもなく、そのような被告ヒンジを購入したユーザーがその被告ヒンジをどのような家具に使用するか、その使用する態様により、被告による被告ヒンジの製造販売行為が侵害行為を構成したり、構成しなかったりというような結論の差異を生じさせるものということはできない。また、被告ヒンジ三は、前記のとおり、その構造上、鋭角に閉扉する扉に取り付けることによりその効能を最もよく発揮できる構造のヒンジであるから、ユーザーが被告ヒンジ三を、その効能を十分に発揮し得ない態様で使用することを前提として、本件考案の侵害の成否を論じるのも相当ではない。

(四) 構成要件D「上記両側カール部の先端側を連設してなる連設部が形成されているヒンジ」について

別紙物件目録の記載によれば、被告ヒンジは、いずれも「外リンク1の一部分(幅方向中央部分)には切欠6が穿設され、軸承部2の両端のカール部2′・2′は第一軸カバー部9によって連結されている」との構造であり、被告ヒンジの第一軸カバー部9が、本件考案の構成要件Dの「両側カール部先端側を連設してなる連設部」に当たることは明らかであるから、構成要件Dの構成を具備するものと認められる。

(五) 前記認定の被告ヒンジの構造によれば、被告ヒンジは、いずれも第一軸カバー部9(連設部)を備えるものであるから、本件考案の作用効果である軸承部を補強する効果、軸ピン圧入時のガイド役の効果、給油の貯溜量を増大する効果を奏するものと認められる。

なお、被告は、前記第二、三2(三)において、「本件考案は、カール部の先端側に連設部を設け、これにより、軸承部の強度低下及び軸ピン圧入時の偏芯離脱を防ぎ、ガイド役の機能を奏させたものであるから、本件考案の「軸承部」は、本件公報の第3図で表されているように、全周方向にわたり左右に分断されている状態である必要があり、また、本件考案の「切欠窓孔」とは、少なくとも軸ピン4の偏芯離脱が可能な大きさである必要があるのに対し、被告ヒンジは、軸承部の半周近くに及ぶ幅広の面からなる第2軸カバー部10が存在し、切欠6もカール円周のほぼ三分の一程度であるため、強度低下の問題も、軸ピンの偏芯離脱の問題も生じず、したがって、被告ヒンジの第一軸カバー部9には、本件考案の連設部が奏する軸ピンを偏芯離脱させないガイド役の機能も、強度を補強する効果もなく、被告ヒンジの「切欠6」及び「第一軸カバー部9」は、本件考案の構成要件C及びDの「切欠窓孔」及び「連設部」の要件を充足しない」等の主張をしている。

しかし、本件考案の構成要件Cは、前記のとおり、「・・・軸承部には、拡角度に開扉可能となるように、閉扉時にあって、前記狭幅リンクの一部を受容可能なる如く、当該拡幅リンクの幅方向中央部に切欠窓孔を設け」るとの構成であって、この「切欠窓孔」とは、まさに拡角度に開扉可能となるように、閉扉時に狭幅リンクが入り込める切欠である必要はあるが、それ以外の構成、機能が実用新案登録請求の範囲において要求されているわけではなく、被告が主張するように、本件考案の「軸承部」及び「切欠窓孔」の構成を、「本件公報の第3図で表されているように、全周方向にわたり左右に分断されている状態である必要があ」るとか、「少なくとも軸ピン4の偏芯離脱が可能な大きさである必要がある」として、実用新案登録請求の範囲にない要件を付加することは相当ではない。また、本件公報の第3図は、従来のヒンジにおける拡幅リンクと狭幅リンクと軸ピンの各斜視図であり、本件考案が前提としているヒンジをこの第3図に表されているように軸承部の先端が左右に分断されているものに限定されると解すべき理由はない。

さらに、被告ヒンジにおいては、被告が主張するように、第二軸カバー部10が、軸承部の強度の補強効果、軸ピン圧入時におけるガイド機能、潤滑油の貯溜機能を奏するとしても、本件考案の「連設部」に当たる第一軸カバー部9も、同じく軸承部の強度の補強効果、軸ピン圧入時におけるガイド機能、潤滑油の貯溜機能を奏することは、前記のとおり別紙物件目録の記載から明らかに認められるところであり、被告の前記主張はこの点からも理由がないものである。

なお、被告は、前記第二、三2(三)(2) において、「被告ヒンジにおいては、第二軸カバー部10の存在により、軸承部の強度、潤滑油の貯溜性の点で、本件考案より顕著な効果を奏する」旨主張するが、本件考案の切欠窓孔は、拡幅リンクの幅方向中央部に存在し、閉扉時に狭幅リンクの一部を受容可能なものであればよいのであり、切欠窓孔の大きさは、適宜設計事項とされるものであるから、被告の右主張は、被告ヒンジを、本件考案の実施例と比較するものであるといわざるをえず、被告ヒンジが本件考案の各構成要件を充足し、その作用効果を奏することは前記のとおりである。

また、被告は、前記第二、三2(三)(3) <3>において、「被告ヒンジ一及び二の各1・2並びに被告ヒンジ四の1・2は、U字ピン4を使用しており、内リンク5の管状部分に挿入されるU字ピンの一方のピンがガイド機能を発揮して、他方のピンの偏芯離脱を確実に回避するもので、偏芯離脱は全くなく、また、内リンク5と外リンク1に、一工程で同時に二本のピンに相当するもの(U字ピン)を挿着できる利点があり、本件考案とは、作用効果において顕著な差異があり、技術的範囲に属さない」旨主張する。しかし、本件考案の構成要件Cは、「上記ソケットに軸ピンにて枢着可能なるよう上記拡幅リンクの左右両側端部にそれぞれ巻成されたカール部による軸承部」という構成であって、単に「軸ピン」としており、軸ピンの形状までは限定していない以上、前記被告ヒンジにおけるU字ピンが構成要件Cの「軸ピン」に該当することは明らかであるし、また、本件明細書の詳細な説明の欄においても「本考案は・・・上記軸承部の先端側に切欠窓孔を設けて連設部を適切に形成することにより、上記連設部にて軸承部を補強すると共に、軸ピンのガイド役をも果させ・・・給油の貯溜量を増大し」(本件公報三欄一三行ないし二〇行)と記載されているところ、被告ヒンジにおける第一軸カバー部9は、前記のとおり、右の補強効果、ガイド機能、給油された潤滑油の貯溜量増大機能を有するものであり、仮に、U字ピンを用いた前記被告ヒンジにおいて、本件考案の連設部に当たる第一軸カバー9によるガイド機能が、U字ピンの前記作用により不要となるとしても、本件考案の連設部が奏するその余の作用効果(補強効果、給油された潤滑油の貯溜量増大機能)を第一軸カバー部9が奏することに変わりはなく、U字ピンを使用している前記被告ヒンジが本件考案の技術的範囲に属しないとの被告の主張も採用の限りではない。

(六) 以上によれば、被告ヒンジは、いずれも本件考案の構成要件AないしDのすべての構成を具備しており、本件考案の技術的範囲に属するものと認められる。

(七) なお、被告は、前記第二、三2(四)において、本件考案が出願前公知の技術であり、その技術的範囲も不当にその範囲が広まらないように限定的に解釈されなければならない旨主張する。

しかし、被告が前記第二、三2(四)において指摘する公知技術は、次に述べるとおり、いずれも本件考案とは異なるものであり、本件考案が出願前公知の技術である旨の被告の主張は理由がない。

(1)  被告は、本件考案について無効審判請求(平成五年審判第一三五〇八号)を提起し、同審判請求において、本件考案は、公知技術である乙二七の考案、乙六、七の考案及び昭四七-三四四五六号実用新案公報(以下「乙八の公報」といい、その考案を「乙八の考案」という。)に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に考案することができたものであると主張したのに対し、特許庁の審判体は、平成六年三月三一日、乙二七の考案においては、連設部が存在しないこと、及び、乙六ないし八の考案においては、「切欠」や「連設部分」が示されているものの、「連設部により軸承部を補強すると共に、軸ピンのガイド役を果たさせ、これにより自動組立の作業性を向上し、給油の貯溜量を増大させる等の本件考案の目的に相当するものが示されていないものであるから、当業者が極めて容易に考案することができたものということはできないから、被告の無効審判請求は理由がない」旨の審決をなしている(甲六、乙八)。

被告は、この審決に対し審決取消訴訟(平成六年(行ケ)第一三二号審決取消請求事件)を提起したが、東京高等裁判所は、平成八年四月一八日、乙二七の明細書に本件考案の「連設部」の記載がなく、また、乙六ないし八の公報には、本件考案の目的に相当するものが記載されていないとする前記審決の判断は正当であるとして、この点についての被告の主張を排斥し、結論として、被告による審決取消請求を棄却した(甲九)。

当裁判所も、乙二七の明細書には、本件考案の連設部の記載がなく、また、乙六ないし八の公報には、本件考案の目的に相当するものについての記載がない以上、右各公知技術から、本件考案を当業者が極めて容易に考案することができるということはできないとした右審決及び判決の判断と結論を同じくするものである(乙二、六ないし八、二七)。したがって、被告の前記主張のうち、乙二七の考案、乙六、七の考案に関する主張はいずれも理由がない。

(2)  被告は、乙四の公開公報にも本件考案と同一の考案が開示されている旨主張するが、乙四の公開公報においては、本件考案における「連設部」を示唆する記載は存在せず(乙四)、被告の右主張も採用し得ない。

(3)  被告は、乙九の発明、乙二四の4、乙二四の5、乙三〇の各考案、乙三二の発明についても言及するが、被告の主張する公知技術は、次のとおり、いずれも本件考案とは、目的、構成及び効果を異にするものである。

<1> 乙九の発明は、公知のスライド蝶番において、扉を閉じた状態に保持することを目的とする発明であり、同発明における窓24は、ローラー31が同窓内に入ることによって扉の閉鎖位置を確保するために設けられたものであり、本件考案の「切欠窓孔」のように他のリンクを受容することによって拡角度に開扉するとの技術的意義を有するものではなく、本件考案とは、目的、構成及び効果を異にするものである(乙九、二四の3)。

<2> 乙二四の4の発明は、乙九の発明における弾性部品の改良形状を提供し、蝶番を取り付けた後でもそのバネの強さを調節可能とする方法を提供するものであり、本件考案とは、目的、構成及び効果を異にするものである(乙二四の4)。

<3> 乙二四の5の発明の目的は、「扉を閉めたときに扉が自動的に再び開いたり、中途半端に開いた状態にならないように閉めることができたり、また、扉が蝶番のまわりを自由に回転でき、あるいは閉鎖位置に非常に近い場所を除いて、特定の位置に扉が押しやられることなく、どのような中間位置にでも扉を止めておくことを可能にする内装リンク式蝶番を提供すること」であり、本件考案とは、そもそもその目的、構成及び効果を異にするものである(乙二四の5)。

(4)  乙三〇の発明は、「足つきバネの影響で扉が半開きになるのを避けるという家具用蝶番の製作の問題点」の解決を目的としたものであり、本件考案とは、目的を異にするものであり、また、狭幅リンクに相当する蝶番バー3が蝶番バー4の切欠溝内に受容されるという構造にはなっておらず、狭幅リンクに相当する蝶番バー3に切欠溝があり、その切欠溝に接合台を受容する構造になっているものであり、本件考案とは、その目的、構造及び効果を異にするものである(乙三〇)。

(5)  乙三二の明細書は、従来技術として、ヒンジが開いたときに、内リンクが外リンクの切欠内に受容され広角度に開扉することができるとの構造を記載しているだけであり、乙二七の考案と実質的に同一の考案を従来技術として記載しているだけであるから(乙三二)、乙三二の明細書に基づく被告の主張は、乙二七の明細書に基づく主張と同一であり、前同様にこれを採用することはできない。

(6)  以上によれば、本件考案は、出願前公知であったとの被告の主張は採用することができない。

二  争点2について

社団法人発明協会発行の「実施料率」(第4版)によれば、被告ヒンジが属する金属製品の分野における、イニシャルペイメントがない場合の実施料率は、三%が最も多く、五%と二%がその次に多く、それ以外は一%から一〇%までまんべんなく存在し、一〇%以上も稀に存在していることが認められる(甲七の1ないし5)。また、当裁判所に顕著な国有特許実施契約書においては、国有特許、実用新案権についての実施料率は、販売価額に対し、実施価値上のものが四%、同中のものが三%、同小のものが二%との基準率が設定され、これに利用率、増減率、開拓率を乗じて実施料を調整することになっているものである。

本件考案については、実施契約を締結したとの証拠は提出されていないので、まずその実施価値を検討してその実施料率を認定すべきであるところ、本件考案は、前記のとおり、扉取付枠に固定するマウンテイングプレートと、扉の凹所に嵌着した後、ビス止め等にて扉cを固定するソケットを拡幅リンクと狭幅リンクにて連結してなるヒンジのうち、拡角度に開扉できるようにするため、拡幅リンクの中央部と軸承部の間に、狭幅リンクの一部を受容可能となるように切欠溝を設け、閉扉時において、狭幅リンクの一部が右切欠溝に受容される構造のヒンジに関するものであり、本件考案の目的、構成及び効果は、拡幅リンクの軸承部に単なる切欠を形成するのではなく、拡幅リンクの軸承部に切欠の代わりに切欠窓孔を設けて連設部を適切に形成し、前記第二、一4認定の構成を採用することにより、右連設部が軸承部を補強すると共に、軸ピン圧入時のガイド役も果たさせ、これにより自動組立の作業性を向上させ、かつ、不良品の発生を抑止すると共に、潤滑油の貯溜量を増大して、長期にわたる円滑な作動を保証しようとするものである。

本件考案は、右のとおり、拡角度に開扉するために、拡幅リンクに切欠溝を設けた構造のヒンジについて、拡幅リンクの先端部の切欠溝に連設部を設けたことにより、右のような効果を奏するものではあるが、ヒンジ全体の構造のうち、拡幅リンクの切欠溝に関する改良考案にすぎないものであるともいえ、拡角度に開扉可能とするために拡幅リンクに切欠溝を設けた乙二七の考案に比べるとその実施価値は低いといえること、及び、これと前記認定の国有特許の実施契約の実施料率や前記文献に掲記された実施料率、並びに、被告ヒンジにおける本件考案の前記実施態様、さらに、本件に現われた諸般の事情を考慮すれば、本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額は、被告ヒンジの売上額の一・五%が相当であると認められる。

よって、原告が被告に対し請求しうる損害の額は、被告ヒンジの合計売上額一一億七六〇三万四九一一円の一・五%である一七六四万〇五二三円と認められる。

(裁判官 設樂隆一 橋本英史 長谷川恭弘)

別紙物件目録一-一ないし二-四、三-二ないし三-四<省略>

実用新案公報<省略>

物件目録三-一

図面及び構造の説明に示すヒンジ

一、図面の説明

第1図 全体の概要を示す斜視図

第2図 ヒンジが最大限折曲した状態を示す側断面図

第3図 ヒンジが最大限開いた状態を示す側断面図

第4図 ヒンジが最大限折曲した状態における二つのリンク関係を示す拡大側断面図

第5図 外リンク先端の部品拡大図

第6図 内リンクの概要を示す斜視図

二、構造の説明

1、ヒンジは、アームb、カップd並びにこれらを連結する二つの外リンク1・内リンク5及調整板7から構成される。家具などに使用するに当たっては、アームbが取付座金8を介して、家具の側板zに、カップdが家具の扉yに、それぞれ家具の内側に取り付けられる。

2、アームbとカップdを連結するリンクは、外リンク1と内リンク5からなり、それぞれ両端が、アームb及びカップdに回転可能に軸支され、ヒンジの開閉は、右両リンク機構の運動によって行われる。

ヒンジは、内リンク5のうち軸着部分だけが狭幅で、それ以外は外リンク1の幅とほぼ同一である。

3、外リンク1のカップdとの結合側部分は、U字ピン4が軸孔3内に挿入可能なように、カール状に巻き上げられて、U字ピン4の軸承部2を形成しているとともに、その一部分には切欠6が穿設され、軸承部2の両端のカール部2′、2′は第一軸カバー部9によって連結されている。ヒンジは、外リンク1ではカップ側と連結する側のカール部分の手前(長手方向の約四分の一の位置)で「く」の字形の曲げ部分を設け、カップdとアームbとが最大限に開いた状態において内リンク5のカール部を前記外リンクの「く」形部の内側面に当接させるようになっている。

外リンク1の切欠幅は、内リンク5の幅の狭い部分の寸法より若干広めで、かつカールの円周のほぼ三分の一となっている。切欠6の前方には、第一軸カバー部9が、後方には第二軸カバー部10が、形成される。

4、カップdとアームbとが最大限に折曲した状態においては、第2、4図に示されるように、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された前記切欠6内に入り込むようになっている。ただし、カップdとアームbとが直角に折曲した状態においては、内リンク5の一部が、外リンク1に穿設された右切欠6内に入り込むようにはなっていない。

三、符号の説明

b アーム

d カップ

y 扉

z 側板

1 外リンク

2 軸承部

2′ カール部

3 軸孔

4 U字ピン

5 内リンク

6 切欠

7 調整板

8 取付座金

9 第一軸カバー部

10 第二軸カバー部

第1図~第6図

参考図(二)

参考図(三)

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